第4章 5月
火神、如月、あとで職員室に来なさい。
放課後のHRで担任教師に言われた。呼ばれる理由はわかっている。
「もう少しなんとかならんのか?」
赤点の答案が二人の前に差し出される。
中間テスト前の小テストではあるが、この成績は酷い。
現代国語と社会の点数が特に酷い。
『「漢字、読めないんで。」』
打ち合わせでもしていたかの様に二人の返事がユニゾンした。
帰国子女の二人はまだ、漢字が全部読めるわけではないらしい。
アリスに至っては問題文すら理解出来ないものがあった、と言った。
このまま中間テストでもこの点数では部活禁止になるぞ、と言う担任の言葉に大きく動揺したのは火神だった。
「ヤベーな、こりゃ。」
『私は関係ないけど。』
「でも、中間テスト落としたら夏休み補習ですよ?」
いたのか?!と黒子に驚く火神の隣で、普通に『補習はやだ』と返事をしたアリス。
相変わらず彼女にはきちんと黒子が認識出来ていた。
「インターハイ予選の真っ最中ですからね。」
『そうなんだ?』
「はい、だから勉強するなら今週末しかなさそうです。」
はぁー、と火神とアリスの溜息が重なる。
部活を取り上げられたくない火神と、夏休みを取り上げられたくないアリス。
こうして会話をしている分には何も問題は無いのだけれど、文字として出されるとまだ分からない漢字が多いらしい。
『黒子くん、助けて!』
「僕ですか?」
『教科書に読み仮名ふる!』
成る程、と黒子は頷いた。
火神とアリスの決定的な違いはそこだ。
アリスは本当に読めないだけで、読めさえすれば内容の理解は出来るのだ。
だからなんとか中間テストまでに、範囲の部分には読み仮名を振っておきたいとアリスは言った。
「それなら手伝えます。」
『ありがとう!部活のない日でいいから、ウチに来て!』
アリスの言葉にピクリと反応したのは火神だった。
「俺も仲間に入れろ!」
「そうですね、みんなで勉強しましょう。」
黒子はそう言うとふわりと笑った。
そもそもクラスの中で浮いた雰囲気になってしまっていたアリスは、旧友の火神と彼のチームメイトの黒子と一緒に過ごす事が普通になっていた。