第29章 12月
すっかり季節は冬。
コートとマフラーを着込んだアリスは帰り支度を済ませて席を立つ。
主人不在の机の引き出しからプリントがはみ出しているのを見つけ、一度それを取り出しトントンと綺麗に揃えて元に戻す。
「火神君、頑張ってますかね。」
『どうだろうね。』
一ヶ月の短期留学制度を使って、古巣のロサンゼルスに火神が旅立って二週間。
とっておいた所であとから火神がそれをやるとは思えないが、小テストを兼ねたプリントやもはや帰国してからでは無意味な内容のお知らせでもアリスは全部きちんと彼の引き出しへ入れる。
「あの、アリスさん。新ワザの対人練習をしたいんですが。」
『私でいいの?』
「はい、でも他のみんなにも頼みたいんです。」
新しいミスディレクションの可能性を試したいと黒子は言った。
教室を出て体育館へ向かう道中、黒子はその可能性についての説明をした。
『それって、つまり…。』
「はい、理論的には可能なはずなんです。」
自分の姿から視線を反らさせる事が出来るなら、その応用でチームメイトから自分へ、もしくは違う何かにも視線を反らさせる事が出来るはずだ、と。
「ドライブの練習の時には火神君の代わりをして貰いましたから。今回もたぶん、最初はアリスさんがいいと思うんです。」
『成功したら面白そうね!』
だって私が消えるって事でしょ?とアリスは楽しそうに言った。
それが黒子の技術だとしても、消えたと思われるのは自分。
「でも、それはアリスさんにバスケをしてもらう事になるんですが。」
『大丈夫だよ。』
「そうですか、よかった。」
あとはアリスさんの練習参加の許可を貰わないと、と黒子は笑った。
今まではあくまでも部活の練習後の自主練習の時間にしか一緒にやってはいなかった。
しかし、今回は他の部員達にも付き合って貰わなければならない。
カントクはダメだとは言わないだろう。
黒子が気にしていたのはアリスの気持ちだった。
『実はね、バッシュも買っちゃったの。』
「そうなんですか?」
『うん!』
今日は持って来てないから、明日からでもいいかな?と申し訳ないなさそうに言ったアリスに、黒子はとんでもない、と感謝の言葉を口にした。
体育館に着くと2号が駆け寄って来た。