第27章 11月 II
試合終了のブザーが鳴り、ウインターカップ出場を決めた誠凛高校。
観客席から飛び降りて彼等に駆け寄ったアリスも一緒に、彼等は歓喜の声を上げた。
「温泉旅行、一緒に行こう!」
『私もいいんですか?』
本戦開始前に今までの疲労回復の為にバスケ部全員で行く事になった温泉旅行。
アリスちゃんが来ないと女の子私一人だし、とカントクから誘いを受けた。
チェックインを済ませ部屋に荷物を置いてすぐ、みんなは温泉へ向かう。
「じゃあまた、あとで。」
『うん、後で。』
温泉は初めてだ、とアリスは大喜び。
中に入ると女子大生のグループが既に入っていた。
他人と同じお湯に入るのが温泉なのだろうが、帰国子女のアリスにはそれが受け入れられずにすぐに上がってしまう。
『タイガ!ちょ、黒子君それ、どうしたの?』
「湯だった?」
のぼせた、と言いたいのだろう。
火神に支えられて出て来た黒子はヘナヘナっとベンチに座ったが、そのまま倒れてしまう。
『大丈夫?』
アリスもベンチに腰を下ろすと、そっと黒子の頭を自分の膝に乗せた。
「アリスさん?」
『いいから、このまま大人しく横になって。』
黒子をアリスに任せ火神は飲み物を買いに行ってしまう。
水で濡らしたタオルを額に乗せた黒子は、早く体を動かしたいがクラクラして動けない。
「すいません。重くないですか?」
『そんな事気にしてないで。』
私に出来る事はこのぐらいしかないから、とアリスは優しく声をかけた。
「ほらよ。」
『はやかったねタイ…?!』
差し出されたドリンクボトル。
顔を上げたアリスと、体を起こした黒子を見下ろしていたのは青峰だった。
「久しぶりだな、テツ。」
「青峰君。」
何だろう。妙に刺々しい空気が流れる。
青峰の醸し出す雰囲気がいつもと明らかに違うのだ。
ウインターカップ初戦の相手は桐皇だと青峰は言った。
きっとそれがこの張り詰めた空気を作っている原因だろう。
夏のインターハイで誠凛は大敗している。
ここにいてもいいのだろうか、と黒子の顔を見れば「大丈夫ですよ」と優しく微笑んでくれた。
「すっかりそっち側なんだな、アリス。」
『そっち側って?』