第24章 10月 Ⅲ
翌朝、カーテンの隙間から差し込む光で目を覚ました黒子は隣でまだ眠っている綺麗な寝顔に目を細めた。
しかし、そんな彼女の腰には色黒の腕がしっかりと回されている事に気づく。
いつまでも自分の家の様に帰ろうとしない青峰に対抗して、黒子も一緒にお泊りしてしまった。
「…アリスさん、そろそろ起きて下さい。」
プニプニっと頬を突くと、んーっと愚図る。
伏せられていてもわかる長い睫毛、眠っている彼女は陶器製の人形の様。白くて長い手足、自分よりも一回り小さな体。
「起きて下さい。」
そのまま寝かせておいてあげたいところだが、時間は待ってくれない。
『…おはよう。』
肩を揺らすとゆっくりと瞳が開かれる。
体を起こそうとしたアリスは、がっちり青峰に手を回されて身動きが取れない様子。
完全にアリスを抱き枕にして熟睡している青峰は、ちょっとの事では目を覚ましそうにない。
「こんな時に聞くのも変なんですが。」
『なぁに?』
なんとか青峰の腕から抜け出そうとモゾモゾ動いているアリス。
その様子はいつものこと、の様に見える。
「青峰君と付き合ってるんですか?」
『付き合ってないよ。』
やっと腰に回されていた手から抜け出したアリスは、すでに疲れが見える。
「…なんでですか?」
『なんでって。』
そもそも『付き合うってなに?』と欠伸をしながらアリスは言った。
お互いに好きなら一緒にいるだろうし、そんな口約束なんて必要ない。
もし、仮に自分も青峰と一緒に居たいと思うならば尚更だ。
彼にとって一番はバスケ。
だったらそんな口約束は邪魔以外の何物でもない。
「でも、好きなんですよね?」
「…つか、俺はもうフラれちまってるしなぁ。」
なんちゅー話で起こしてくれてんだよ、と青峰は不機嫌そのもの。
彼の足元で一緒に寝ていたらしい2号も目を覚ましていた。
スリスリと彼の手に戯れ付き、朝の散歩をせがんでいる。
『おはよう、2号。』
おいで、と青峰の方から自分の方へと呼び寄せるとフワフワと頭を撫でた。
ぐっすり眠って気持ちよく朝を迎えたかったが、なんだか空気が重い。
「さっきの話、フラれたんですか。青峰君。」
2号と散歩に行ってしまったアリス。