第3章 4月 II
公園の街灯の明かりに小さな虫達が集まり始めていた。
軽く走った後、どうしても立ち寄ってしまう場所があった。
街外れの公園にある、小さなストリートバスケ用のコート。
昼間は子供達の良い遊び場なのだろうが、日が暮れてしまうとそこはガランとしている。
もうやらない、と決めたのに自然と足が向き、フリースローラインに立つと心も穏やかになる。
ボールは無いが、目を閉じてシュートフォームを取った。
「なぁアンタ、最近いつもここにいるよな?」
今夜は彼女の他にもここに来た人物がいた。
『ゴメン、邪魔したいわけじゃないの。』
逃げる様にコートから出て荷物に駆け寄る。
脱いだウィンドブレーカーとタオル、スポーツドリンクの入ったボトル。イヤホンの繋がったままのスマホからは、まだロードワーク中に再生していた曲が流れていた。
「バスケ、好きなのか?」
ドリブルの音、風を切る音、そしてリングを揺らす大きな軋み。
振り向いた先には、転がるボールとリングに軽々とぶら下がってまさに降りようと身体を揺らす青年。
『…あまり好きじゃない、かな。』
「なんだ、ちげーのか。」
声かけて損したぜ、と退屈そうに言った彼は転がるボールを拾いに行く。
きっと彼はここにバスケをしに来たのだろう、邪魔になってしまう前に退散した方が良さそうだ。
「でもそんだけ走ってんだから、運動はそこそこやるんだよな?」
『え?』
「相手しろよ、ヒマなんだ。」
NOとは言わせない、そんなオーラが彼からは嫌という程に出ていた。
走ったからではない嫌な汗が吹き出してくる。
『でも…。』
「いーよ期待なんざしてねぇ。暇つぶしだ。」
彼はそう言ってボールを彼女へと放った。
咄嗟に受け止めてしまったボール。
触るのは何ヶ月ぶりだろうか。
きっと彼は本当にバスケが好きなんだ、と受け止めたボールの感触でわかった。
外で使用しているからだろうが、もうそろそろ買い替えどき。
どのぐらい使うとここまで磨耗するのだろうか。
「なんだよ、やり方ぐらいわかんだろ?」
『まぁ、少しは。』
ボールを持ったまま動かない彼女に痺れを切らし、早く来い!とディフェンスの体制になる。
フーッと息を大きく吐いた彼女は、手首を返す。
ドリブルの基本姿勢は知ってんだな、と彼はどこか嬉しそうに言った。