第85章 【一松ルート】松野一松の希求
いつからだったか、ハッキリとは思い出せないけど、そんな俺の世界が変わった瞬間がある。
その世界は、あったかくて、眩しくて、正気でいたらとてもじゃないけど両目を開いていられないところ。
温かさは時々ぬるま湯にもなって、絶対零度まで下がったり、かと思えば沸騰したりする。
眩しくて眩しくて、俺はそれから必死に目を背けようとするんだけど、少しだけ開いた襖の隙間の向こうのように見たくて見たくて堪らない。
そんな世界で、正気でいられるわけがないよね。
正直、抜け出したくて堪らなかったよ。
こんな世界、俺にはあわない。
俺ってさぁ……こう見えて繊細なところあるんだよね。
そんな俺が、自分の正気を保てない世界を簡単に受け入れられると思う?
無理だよね。
突き放しても突き放しても、それはゴムボールみたいに何処かに当たって俺に戻ってきて、しかも、戻ってきた時には大きくなって。
そしてそれは、その世界は、ついには俺の体よりも大きく大きくなって、すっぽりと俺を覆ってしまった。
中から出るのは困難で、外からの助けも期待できない。
俺は必死に心<耳>を閉じたけど、俺を侵食し続けるその世界の声は、そんなことを無視して俺の耳<心>に語りかけてくる。
それは麻薬のようにじわじわと、俺を、俺がいた世界を侵していった。
不快感はなく、むしろ心地良くて、何故だかわからないけど目から熱いものが溢れるような、それは。