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【忍たま】短編集

第2章 桜色(七松小平太)


また、ここへ来た。
これで何度目だろう。



逞しいその太さ、堂々たる風格、威厳に満ち溢れていて恐れを知らない様。

私は「彼」に話しかける。


「ねぇ、会いに来たよ。」


返事はない。
ただ風が私の髪を撫でていく。
見上げると僅かに色付いた蕾が笑いかけるようだ。
陽の光が反射してキラキラと輝く。

それはまるで、小平太の笑顔みたいに。






二年前の同じ季節、彼は忍術学園を卒業した。
その夢を応援していた私は、笑顔で見送った。
彼も笑顔を絶やすことはなかった。


「約束する。必ず椿の元へ帰ってくる。」

「うん。」

「この桜を椿にやろう。私だと思って会いに来てやってくれ。」

「やるって……小平太のものじゃないじゃない。」

「細かいことは気にするな。私も椿だと思って、こいつに会いに来る。」

「ふふ、そうだね。」


忍術学園からは離れたこの場所。
小平太が連れてきてくれた。
とても大きな桜の木が一本だけ生えている。
多分、誰も知らない秘密の場所。


季節が巡るたびに一人でここへ訪れる。
小平太は学園にも顔を出しに来てくれないから、私はこうやって「彼」に会いに来る。
「彼」に寄りかかって話しかける。小平太にするみたいに。

でもいくら話しかけても抱き締めても、「彼」は何も言わない。何もしない。



寂しい……




ねぇ、私に笑いかけて。
私の髪を乱して。
私を抱き締めて。


今、どこにいるの?
何をしているの?

待っているだけじゃ、不安に負けそうになるよ。


風が枝を揺らす。今年は冬が長かったから、まだ花が開いていない。

「お前、仲間はいないの?どうして一人でいるの?私と、同じだね。」

せめて小平太が無事でいてくれたなら…
目を瞑り、大きな桜の木に祈りを込める。



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