第25章 *そうじゃなくて*〜黄瀬涼太〜
…しばらくして、先輩の言う通り、涼太は体育館に戻ってきた。
そして今は、一緒に下校している。
「香奈…」
「…?」
「…ごめん。」
暗い顔をして謝る涼太に、もう大丈夫だよ、と返した。
しばらくそのまま沈黙が続いたけど、涼太がふと口を開いた。
「…香奈、一つ聞いてもいいスか?」
「いいよ。」
涼太が足を止めるのにつられて、私も止まる。
「香奈は、俺の事、どう思うっスか?」
「好きだよ…?」
「そうじゃなくて。」
トン、と壁に背中が当たって、壁と涼太に挟まれる。
突然の事にビックリして、今至近距離にいるんだ、と気づくのが遅くなる。
「いつも、可愛いしか言ってくれないじゃないスか。
だから…俺の事、ちゃんと見て、どう思うか教えてほしいんス。」
その言葉にドキッとして、鼓動が耳に届く。
目の前の涼太の顔を見て、もう隠せないな、と思った。
「…か、かっこいい。」
「…っ!」
「私…いつも思ってたのに恥ずかしくて、言えなくて…ご、ごめんねっ。」
恥ずかしさに、顔を隠した。
けど、近すぎて上手く隠せない。
顔に手を当てるけど、多分、真っ赤なのはバレてるだろうな、と思った。
「香奈…可愛い。」
「…えっ?」
涼太の声に、パッと顔を上げる。
そこには、意外にも真っ赤な顔の涼太がいて。
と、不意に唇が重なって、涼太の顔が見えなくなる。
次に見えた時には、優しく微笑んでいた。
「やっぱり、俺より香奈の方がずっと可愛いっスよ。」
「あ…ありがと…。り、涼太も、すごくかっこいい!」
だって、彼氏が涼太な以上、私の一番は涼太だけだから。
*そうじゃなくて*
一番ほしい言葉は、
やっぱり、
君に直接言ってほしい。