第19章 *至近距離*〜緑間真太郎〜
「じゃあ、今のところをもう一度弾いてみろ。」
「えっ…あ、あの…」
「早くするのだよ。」
無自覚…なのかな?
私は、うろ覚えな緑間君のお手本通りに弾いてみた。
「また間違えているのだよ。ここはこうだと言っただろう。」
「み、緑間君////」
私の指に、スルリと緑間君の指が絡まる。
「…香奈。」
「ひゃあっ///な…に?///」
ドキドキと心臓が高鳴る。
耳…息かかってっ…////
緑間君の声が耳元で聞こえて、頭がボーッとする。
「真面目に聞け。ボーッとするな。」
「う…うん////」
「じゃあ、もう一度だ。」
緑間君の声のトーンが上がった事から、笑ってるんだなと思った。
…その後、昼休み終了の五分前まで私は教えてもらった。
その間も距離が近すぎて、緊張してたけど。
「ピアノって大変だね…」
「ああ。…よく頑張ったのだよ。」
ふわりと笑う緑間君を見ると、さっきもこんな顔だったのかなと思い、胸が苦しくなった。
「…あ、ありがとう…////」
「礼をされるほどの事はしてないのだよ。
…だが…」
「?」
急に静かになった緑間君の顔を覗き込むようにして、首を傾げる。
…と同時に、ぐっと肩ごと引っ張られた。
「きゃっ…んん!?////」
一瞬距離がなくなって、またちょっと距離をとった緑間君は、やっぱり微笑んでいた。
「せっかくなら、これくらいはもらっておくのだよ。」
*至近距離*
あんな至近距離、
無自覚でいられる訳が無い。
狙ってやったに決まっているのだよ。