第3章 伊月*スキ
「っ⁉︎」
突然の物音に驚く俊。
私が立ち上がる音だったと気づくと、不思議そうな顔をした。
「香奈、何かあった? いきなり立ち上がって……」
「なんで気づいてくれないの! その目で周りが見えるなら、目の前にいる、あたしをちゃんと見てよ!」
ほぼ叫んでいるようなあたしの声に、俊は目を見開く。
ハッとした俊が何か言う前にぶつける。
感情任せの言葉。
「あたしたち付き合ってるんでしょ? せっかく部活ないのに、デートもしてくれないの?」
それもだんだん弱々しくなっていく。
声が震えて、叫ぶのも苦しくなって、最後は小さな呟きになった。
「俊は……あたしのこと、本当に好きなの?」
教室がしんと静まり返る。
俊は、うまく言葉がまとまらないみたいで、考えこんでいた。
いたたまれない。もうこのまま帰っちゃおうか。
そんなことを思った矢先、俊も立ち上がった。
初めて、抱きしめられた。
「ごめん。俺も好き。大好き。少し怖かったんだ」
「……なにが」
「香奈と付き合えたのが夢みたいで。どれくらいの近さがいいとか、触っていいのかとか、デートのタイミングとか。全部がわかんなくて、怖かった」
俊の言葉ひとつひとつが、あたしの心を軽くする。
なんで、もっと早く言ってくれなかったの。
私だって同じ悩み、抱えていたのに。
そんな、小さな不満はまだあるけど、さっきまでの痛みはなくなっていた。
「抱きしめられるの、嫌じゃない?」
「……嫌じゃない」
「キスしてもいい?」
「遅すぎるくらいだよ」
俊の腕が緩んで、顔を見合わせた。
私が大好きな、まっすぐで真剣な表情だった。
優しく唇が触れ合う。
うまくできなくて歯がぶつかる。
息が苦しい──。
キスが終わっても、いつまでも唇に熱が残って、鼓動も速いままだった。
幸せそうに笑った俊は、私の耳元に顔を寄せて、こそっと言った。
「隙あらば好きを伝える。キタコレ!」
私も、幸せで顔を真っ赤にしながら笑った。
*スキ*
君になら、
隙も、好きも、
いっぱいあげる。