第18章 *瞬間恋愛*〜宮地清志〜
「…遠野?」
初めて呼んだ名前。
そこにいたのは、今日転校してきた、遠野だった。
「あっ、宮地君!忘れ物?あたしもなんだよねー」
俺の名前、覚えててくれた。
そう思うだけで心臓が高鳴る。
「忘れ物だよ。…悪いか」
だけど、素直になれない俺は、無愛想な返事をした。
遠野は、何て思うだろう。
怖いって思ったかもしれない。
苦手だと思われたかもしれない。
一人不安になっていると、遠野は、
「ううん!一人ってのも寂しかったから、話し相手欲しかったの!」
と笑顔で返してきた。
その笑顔が夕日に照らされてて、綺麗で、思わず顔が熱くなる。
「…あっそ」
ふいっとそっぽを向いたのは、その顔を隠すためだった。
「それに、宮地君の事もっと知りたいし!せっかく席近いんだもん!」
忘れ物の筆箱を手に持っていた俺は、その言葉に驚いて、落としてしまった。
自分の心を見透かされているようで。
だって、俺も遠野の事知りたいって、思ってたから。
「…どうして俺の事、知りたいとか思うんだよ?」
「うーん…
話してて楽しいし、好きだから、かな。」
そう言って、また、遠野は笑顔を見せた。
多分、こいつの言うのは友達的な意味だ。
けど、俺は…
その言葉に、少なからず期待してしまった。
そしてそれと同時に、俺は自分の気持ちに気づいた。
「…俺も。」
「ん?何て言っ…」
首を傾げた遠野に近づいて、そっと唇を重ねた。
それは長いような、短いような、不思議な時間だった。
「宮地…君?な、何して…っ」
かあっと真っ赤になる遠野の熱が移ったように、俺も赤くなる。
「お…俺も好きだっつってんだよ!轢くぞ馬鹿!」
照れ隠しに言った言葉に遠野はポカンとして、その後には、俺の一目惚れした表情で、笑ってみせた。
*瞬間恋愛*
俺の初恋は、
あまりに一瞬すぎる、
瞬間恋愛でした。