第98章 *40度の熱*〜黄瀬涼太〜
冬が近づいてきた頃の、土曜日。
「40度…すごい熱じゃないスか。」
体温計を見て、涼太くんが呟く。
今年が始まってから、もう3度目だ。
風邪に弱い私にとっては、よくあることだけど、また高熱を出してしまった。
昨日の風は冷たかったのに、油断してフリースを着なかったからかな…?
「香奈っち、調子はどんな感じスか?」
「頭痛いのと…喉も痛いし、だるい…。」
「そうっスよね…。今、薬持ってくるね。」
こんなにすぐ風邪を引くのに、涼太くんはいつも看病してくれる。
今日も朝早くに来てくれたけど…でも、今日は休んじゃダメだよ。
涼太くんが持ってきてくれた薬を飲んだ後、彼の服の袖を、弱々しく引っ張る。
「涼太くん、学校、行って…。今日、練習試合でしょ…?」
「でも、香奈っちは一人暮らしじゃないスか!1人にはできないっス…!」
「私の事はいいから…ね?」
先輩方が強いのは知ってる。
それでも、涼太くんは欠けてちゃダメなんだよ。
バスケは皆で勝たなきゃ。
「大丈夫…ちゃんと、安静にしてるから。」
「むぅ…本当っスか?」
「うん。あ、でも一つだけ…いい?」
私がか細い声で訊くと、涼太くんはこくりと頷いてくれた。
「練習試合終わったら…少しでいいから、また来てくれないかな…?」
「あっ…当たり前っス!言われるまでもないっスよ!」
「そっか…ありがとう。」
私が袖を離すと、涼太くんは立ち上がった。
行く決心がついたみたい。
「香奈っち。」
「ん…?」
「俺、絶対勝ってくるから!」
今日見た中で最高の笑顔に、私も笑顔になる。
「…うん、待ってる。」
その言葉の後、涼太くんは部屋を出て行った。
また後で会うのが、すごく楽しみだ。
高校に入学したばかり頃、誠凛と練習試合をするまでは、勝つのが当たり前だって言ってたのに。
今ではどんな試合でも練習でも真剣で、私も元気をもらってる。
涼太くんが笑顔で来てくれることを信じて、目を閉じると、いつの間にか私は眠りについていた。