第95章 *嘘つき同士 feat.緑間
「だからその、…いい?」
「…ああ。」
「ん、ありがと…。」
不覚にも心臓が高鳴る。
遠野の口から初めて聞いた単語に、俺はまたも驚いた。
「あのね…一つ、言いたいことがあったんだ。」
「何だ?」
「…緑間、朝はごめんね。」
朝話した事と言えば、一つしかない。
互いに嫌いと言い合うだけで終わった、あのやり取りだ。
「緑間のことだから、あんな風に言っても気づかないかなって。」
「馬鹿にしているのか?」
「普段ならそうかもだけど、今は違うよ…。」
少しイラッとする俺に対しても、普通の言葉で返してくれる。
遠野にしては優しすぎる気がした。
「…緑間、耳貸して。」
そう言われ、俺は遠野に顔を近づける。
顔は赤く、どこか眠そうな表情で、息は少し荒い。
普段との差に目が離せなくなっていると、遠野が俺の耳元で小さな声で呟いた。
「嘘だよ。…好き、緑間。」
「な…っ!?」
一気に顔に熱が集中する。
嘘ではないかとも思ったが、からかってるわけではなさそうだ。
声も表情も、本気そのものだった。
「…緑間は?」
まっすぐに問われて、口ごもってしまう。
直接言うのは俺にはまだハードルが高くて、何も言わず、行動で示すことにした。
「…んっ…は……ぁ」
キスの時に漏れる声にさえ、可愛いと思ってしまう。
風邪のせいか、余計に色っぽく聞こえるのだろう。
唇を離した後も、少し苦しそうに息をする遠野。
それが落ち着いた頃になって顔を上げ、
「…今日は許す。けど、次はちゃんと言わせるからね…。」
そう言って、俺に向かって微笑んだのだった。
*嘘吐き同士*
あいつの嫌いも、
俺の嫌いも、
どっちも嘘で、本当は…。