第88章 *不慣れ*〜黄瀬涼太〜
あたしに言ってほしいだけなのか、本当に分かってないのか、それとも両方なのか。
とにかく、黄瀬君はこの状況を楽しんでいるらしい。
「ほしいに決まってんでしょ、バカ。…で、あるの?」
「……え」
いや、「え」じゃないから。
何その間抜けな顔。
「何?」
「いや、あまりにあっさり言うから……あ、もしかしてデレ期到来ッスか」
「何がデレ期だ。というか、自分で言うなら質問にはちゃんと答えてよ」
あっさりって、何であたしが拒否する事前提?
よく分からないけど、黄瀬君は軽く動揺してるみたいだった。
「もちろんあるッスよ!」
それを隠すように、あたしに綺麗にラッピングされた小さい箱をくれる黄瀬君。
「ん、ありがと」
「えっ……えええっ!?」
さっき隠そうとした動揺が隠しきれなかったらしく、黄瀬君はまたわたわたしていた。
「香奈、今、なんて……」
「? だから、ありがとうって言ったんだけど」
黄「っ……!?」
変な黄瀬君。
けど、何か…顔赤い?
「黄瀬君、何で照れてんの?」
「……かっ、可愛い事言うからッスよ!」
可愛いと言われたのは嬉しいけど、どの辺が可愛いのか分からない。
意識的に可愛くなんてしてないし。
「あーもー、らしくないッス!」
黄瀬君の考えだって読めないよ、なんて一人心の中で呟いた直後、腕を引っ張られる。
そうして黄瀬くんの方へ倒れこむと、息苦しくなった。…キスされたから。
「な、なに……突然」
「俺ばっかドキドキしてるんスもん。仕返しっス!」
私だって、黄瀬くんにドキドキしっぱなしだよ。
そんな気持ちを胸に、黄瀬君にもらったチョコをギュッと抱きしめた。
*不慣れ*
女子にモテる君でも、
あたしと同じで、
恋は不慣れみたいです。