第88章 *不慣れ*〜黄瀬涼太〜
「香奈、香奈!」
あたしを呼ぶ時、嬉しそうに笑う黄瀬君。
その笑顔が、今日は一段と明るく見えた。
「聞こえてるって」
「ホワイトデーッスよ!」
「うん、そうだね」
あ、なるほど。それで今日はテンション高いのか。
そういえばバレンタインの時もそうだったな、と思い出す。
あの告白以来、あたし達は彼氏と彼女になった。
通常ステータスがわんこな黄瀬君を見てると、あの告白の時の表情が別人みたいだ。
「えーっ、それだけ?」
不機嫌そうに頬を膨らませる黄瀬君には、どうしてもかっこよさを感じる事が出来ない。
というか、そんな可愛い仕草、男子なのによく出来るな。
これが許される男子なんて、黄瀬君くらいだと思う。
悔しいけど、黄瀬君だと女子並み、もしかしたらそれ以上に可愛いかもしれない。
「香奈は、期待とかってしないんスかぁ……?」
期待してない? そんなわけない。
彼氏とのホワイトデーなんて、期待するのが当たり前だと思う。
なのに、何を勘違いしたのか、黄瀬君にはあたしがホワイトデーに興味がないように見えたらしい。
「さぁ、どうでしょう?」
面と向かって言うのは恥ずかしいから、あえて曖昧な言い方をする。
「質問にはちゃんと答えてほしいッスー!」
「だって、本当は分かってるんでしょ?」
黄瀬君がこういうのに疎いはずがない。
むしろ逆だ。
女子の気持ちは全部分かってそう。
「香奈って分かりづらいんスよー……」
「は?」
「だって顔に出ないんスもん」
自分ではあまり気づかなかった。もしかしたら、冷たく見えてたのかもしれない。
「だから、香奈の言葉で教えてほしいんス!」