第87章 *クッキー*〜桜井良〜
香奈「良、く…ごめんね…」
桜「何で香奈さんが謝るんですか?」
香奈「っ⁉」
突然聞こえた良君の声に、ビクッとなる。
見られるなんて思ってなかった。
こんな事なら、泣かなければよかったと今更後悔する。
桜「香奈さん、無理しないでください。僕の前で無理をしているのを見るのは、嫌なんです。」
香奈「でも…」
桜「優しいのと嫉妬しないのは、全然違います。香奈さんは優しいですよ。」
その言葉に、やっと止まった涙がまた溢れそうになった。
桜「これ食べて、元気だしてください。」
そう言って差し出されたのは、さっき良君が作ったと言い見せてくれたクッキー。
香奈「いいの…?」
桜「香奈さんのために作ったものですから。今日、ホワイトデーなので…。」
良君の方が優しいよ。
私の事気遣ってくれて、慰めてくれて。
その優しさに、また涙が零れた。
香奈「良君…私、良君が誰かに笑顔を向けるのを見ると、寂しく、なって…。でも、私だけになんてダメ、だから…」
桜「…すいません。確かにそれは無理です。でも…」
泣きじゃくる私を抱きしめて、良君は言ってくれた。
桜「僕は、香奈さんだけが好きです。」
その言葉だけでもう、十分だよ。
*クッキー*
その後、
二人で食べたクッキーの味は、
すごく美味しくて笑顔になった。