第80章 *触れるだけで*〜笠松幸男〜
笠「悪い、慣れてなくて…」
香奈「でも、ゆきちゃん女子と喋れてたよね?」
それだけの事だけど、ちょっと妬いた。
たくさんの人と喋る人ならそうは思わない。
けど、ゆきちゃんは女子苦手なのに…
笠「…悪い。」
香奈「だから、喋れて…」
笠「そっちじゃない。」
トン、と音がして、視界が真っ暗になる。
それだけで、ゆきちゃんに抱きしめられたんだって分かった。
笠「不安にさせて、ごめん。」
胸がギュッてなった。
それだけで、もう息苦しいくらいに。
抱きしめられてる。
ゆきちゃんが、私を抱きしめて、離さないでくれてる。
足がフラフラしたけど、私も抱きしめて、何とか立ち続けた。
笠「それと…これ。」
香奈「何、これ?」
渡された紙袋に、ただ首を傾げる私。
それを見て、ゆきちゃんは恥ずかしそうに顔を逸らした後、その顔を真っ直ぐに私に向けてくれた。
笠「…ホワイトデーの////」
あれ、何でだろう?
顔が赤いの、バレないようにしてたのに。
何で私…ここで泣いちゃうの?
紙袋で顔を隠して、零れる涙を止めようと必死になった。
笠「おい、どうしたんだよ?」
香奈「だい…じょ、ぶ…何でもない…!」
笠「何でもないわけねーだろ。香奈…」
香奈「ダメ、見ないで…。私の顔、ひどいから…」
こんな真っ赤で、
こんなに泣いてる顔、
見せれるわけないでしょ?
笠「…そのままでもいい。」
そう言って撫でてくれる手に、安心する。
緊張もしたけど、それより、もっと嬉しさがあった。
香奈「ゆきちゃん、好き…大好き…」
笠「…俺も」
その時ゆきちゃんが笑ってる気がしたのは、きっと、気のせいじゃないよね。
*触れるだけで*
君が私に触れるだけで、
私の感情は、
君に左右されてしまう。