第68章 *もっと*〜青峰大輝〜
…それから何ヶ月か経ち、WC後。
大輝達は…誠凛に、負けた。
外に出ると、偶然にも大輝とさつきちゃんの声が聞こえてきた。
「いいの?香奈ちゃんのところ行かなくて。」
「別に…。散々冷たくして、今更話すような事なんてねーよ。」
「でも…っ!」
まさかとは思ったけど、それは私の話だった。
話は聞こえても、いざ踏み出す勇気がなくて、私はその場に立ち尽くす。
盗み聞き…みたい。
聞いちゃ悪いよね。
でも、大輝がどう思ってるのか、気になる。
直接聞く勇気がなかったから、ラッキーなんて思ってる自分もいる。
そのことに、嫌気がさした。
「ちゃんと、話するべきだよ!香奈ちゃんの事…好きでしょ?」
その言葉に、私はますます動けなくなる。
しん、としばらく沈黙が流れた。
静寂が、私の頭をおかしくする。
ちゃんと立ててるのか、フラフラしてるのか分からなくなった。
…それでも、大輝の声はやけにハッキリと、私の耳に届いた。
「…当たり前だろ」
大輝のその言葉が聞こえた直後、私は走り出していた。
ドンッという音が聞こえて、同時に体に何かがぶつかる衝撃。
大好きな広い背中。
…私は、後ろから大輝を抱きしめていた。
「なっ…香奈!?」
「大輝…っ!」
大輝はいつになく動揺している。
そんなこともお構いなしに、私は離そうとしなかった。
普段なら空気を読んで立ち去るさつきちゃんも、驚きのあまり固まっている。
「大輝…好き、大好き…。」
いつぶりだろう。
真っ赤になる大輝を見て笑って、私も少し赤くなるけど、それを隠して。
とても懐かしかった。
「俺だって…
俺だって、ずっと好きだった。」
久しぶりに見れた笑顔に、一人で流したのとは違う、熱い涙が流れた。
*もっと*
辛い事も、嫌なことも、
二人で乗り越えて、
もっともっと、好きでいたいんだ。