第8章 ボカロ*告白予行練習*〜黄瀬涼太〜
香奈side
夕焼けに染まる、二人きりの教室。
隣の席、という至近距離にドキドキしつつ、それを隠すように私はシャーペンだけを見つめた。
「…っと。よし、これで終わり。ごめんね、日直の仕事付き合わせちゃって。」
「や、大した事してないっスよ。ただ、女子が遅くに一人で帰るのは、危ないっスから。それに、家も近いし、ね?」
私の隣に座って、日直の仕事が終わるのを待ってくれた涼太は、私の幼馴染。
それでも、私をちゃんと一人の女子として気遣ってくれる。
私は涼太のそんなところが、好きになったんだと思う。
「香奈、行くっスよー?」
ボーッとしていた私は、この言葉でハッとした。
「…涼太。」
「ん?何スか?」
「いきなりだけど…ごめんね。本当はずっと、好きでした。」
…しん、と、沈黙が続く。
っ…!私、何言って…!
どうしよう、これ。
まだ、知られるのは怖い。
心の準備もできてない。
なのに、好きって言っちゃった。
何とか隠そうと、とっさに出た言葉が、
「…なんてねっ!ドキッてした?私、好きな人できてさー。その練習なんだけど、変じゃなかったー?」
だった。
唖然としてた涼太が、呆れ顔をする。
「そんな顔しないでさ〜。いいじゃん。可愛い幼馴染が恋をしたんですよ〜?」
「何自分で可愛いって言ってんスか(笑)つーか、そういうのは幼馴染相手にでも冗談で言っちゃ駄目っスよ?本気になってもいいんスか?」
あぁ…今のは、『冗談』になっちゃったんだな。
それならいっそ、真に受けちゃえばいいのに。
「ごめんごめん(笑)ね、この後カラオケでも行かない?」
「マジっスか!?行くっス!」
でも、そんな事言う勇気がない私は、この日一日、涼太に嘘をついた。
その後、家に帰って、お風呂に入って、ご飯食べて…
だけど、全然食べた気になれなくて、気付いた時にはベッドにダイブしていた。
「…明日は、ちゃんと言おうかな。」
まだ怖いけど、嘘ついたままも嫌だ。
しばらく悩んでいたけど、私は気づけば眠りに落ちていた。