第38章 *近くに*〜宮地清志〜
香奈side
小さい頃、助けてくれた。
あの人は、今、どこにいるんだろう?
それは、小学四年生の頃だった。
暴力や暴言を直接言われた事はなかったけど、確かにあたしは嫌われ者だった。
こそこそ噂されて、
避けられて、
話しかけられた事もない。
その時あたしは、クラスで浮いた存在だった。
だけど、ある人が助けてくれた。
「転校生の、宮地君よ。」
「宮地 清志です。よろしく。」
その人は、転校生だった。
名前はよく覚えている。
宮地 清志君。
あたしの隣の席だった。
「よろしくな。」
「え…?」
話し、かけられた?
「お前、名前は?」
「遠野 香奈、です…」
親以外に話しかけられるなんて、何年ぶりだろう。
だけど、いつかは避けられるのかな、と思っていた。
…でも、彼は違った。
「あの、この鉛筆、違いますか…?」
「え?あー…あたしのだけど、あげるよ。もう使わないし。」
いつもの会話。
そしてその女子は、遠くの友達の所に行って言うんだ。
『うわ、あいつに話しかけられちゃった。しかも、あの鉛筆結構お気に入りだったんだけどー。』
いつもの事だ、と無視しようとしてた時。
「おい。拾ってもらったのにその態度はないんじゃねーの?」
視界には、女子に話しかける宮地君の姿。
「えー?あたし、遠野さんに鉛筆あげただけだよ?」
「聞こえてんだよ。いい加減にしねーと、轢くぞ。」
背筋が凍るような視線で女子を見る、宮地君。
女子がその視線にビクッとした。
「分かったら、謝れ。」
「っ…遠野さん、ごめん…」
そう言って、女子数人はパタパタと駆けて行った。
宮地君は、視線を女子からあたしに向けて、こっちへ歩いてきた。
「お前もお前で何で黙ってんだよ。」
「言ったところで、心から謝る人なんていない。皆、あたしの事嫌いだから…」
あたしの味方なんていない。
そう思っていたあたしに、宮地君は言ったんだ。
『なら、俺がお前を守るから。』
その時からもう何年も経って、今では高校生になっていたけど、あたしは、あの時からずっと宮地君の事が好きだった。