第32章 *10個*〜森山由孝〜
「そうだな…。それじゃあ、一番好きなとこを言おうか。」
さっきまでとは違う優しい笑みで、頬に手を添えられる。
さっきのも好きだけど、こっちの笑顔も好き。
…でも、本人には秘密にしておこう。
「ど、どこですか…?」
さっきとは違う雰囲気に、もっと緊張してしまう。
なんて言うのか気になって、ジッと先輩を見つめた。
「それは…外見も内面も、
香奈が世界で一番可愛い所だ。」
ドキン、という音が耳に響く。
スピーカー越しの音じゃなかったから、自分の中で鳴った音なんだと分かった。
…冗談ですかって、またネットですよね?って、言おうとした。
だけど、言えなかった。
だって、その表情が、全部本当だって言ってたから。
「…俺、こんなダメなやつだし、見放されてもおかしくないけどさ。
香奈のことは、ちゃんと誰よりも好きだから。」
その笑顔に釘付けにされて、目が離せなかった。
…照れてるのか、頬は赤い。
他の子には見せない笑顔だ。
やっぱり私は、この人には敵わない。
「愛してる、香奈。」
その言葉と甘いキスは、知らない誰かからの情報なんかなくて、不器用で、優しかった。
*10個*
他の誰にも言わない、
他の誰にも思わない、
君からの甘い言葉、10個。