第31章 *キミ不足*〜黄瀬涼太〜
「もう大丈夫ッスか?」
「ん…」
さっきまで喧嘩してたのに、あたしの涙を拭ってくれる黄瀬君の事を、やっぱりあたしは嫌いになれない。
「…黄瀬君。」
「ん?」
ポンポン、と頭を撫でていた手を離して、真っ直ぐ見つめられる。
あたしも、黄瀬君を真っ直ぐ見た。
告白以来かも、こんな事するの。
「ごめんね。あたしが悪かった。…気づくの遅いよね。」
ズキンズキンと、胸が痛む。
お願い、まだ嫌いにならないで。
あたし、黄瀬君の事…
好きだから。
「ううん、俺の方こそごめん。…香奈、傷ついたっスよね。本当は香奈の事、好きっス。」
「…黄瀬君は、優し過ぎるよ…」
また泣きそう。
…でも、あたしにはまだ言いたい事があるから。
泣くのはもう少し我慢。
「黄瀬君、これからは、好きなだけあたしに触れていいよ?」
「っ!ほ、本当っスか!?」
「うん。」
今まで冷たくしちゃった分、これからは優しくしたい。
「なでなでするのも?」
「うん。」
「ギューってするのも?」
「う、うん…っ」
「じゃあ…」
黄瀬君は、あたしを壁に追い詰めて、あたしの顔の横に手をついた。
…これが、壁ドン…なのか。
「俺、香奈不足なんスよ。」
「そ、そうなんだ…」
そんな事言われたの初めてで、緊張する。
自分の心臓の音が、頭に響くくらいうるさかった。
「だから、香奈がもっとほしい。」
「え、えっと…っ」
「拒否権なんてないから。」
いつもと違って、真剣な黄瀬君にもドキドキしちゃうなんて、あたしよっぽど黄瀬君が好きなんだろうな。
そんな事を考えながら、黄瀬君に触れられる度にあたしは顔を真っ赤にした。
*キミ不足*
まだ、これじゃ足りない。
今までの分の君が、
もっとほしい。