第16章 詐欺師の森
愛宮の騒動があってからというもの、リッカイの人気者になってしまったフェリシア。
廊下に出れば声をかけられ、下駄箱を開ければファンレターにラブレター。部活中も今まで以上に声援がうるさくなった。
「フェリ、大丈夫?」
「...ダメかも」
「...ヒコ」(...ムリ)
教室に着いた途端、自分の机に突っ伏してしまったフェリシアに声をかける幸村。
いつも溌剌としている声も、パートナーにも覇気がない。
「ごめん精市君、巻き込んじゃって」
「いや、フェリシアは悪くないよ」
「...精市君、」
「なんだい?」
「...このスクール、静かな場所ってある?」
誰も来ないような、と続けるフェリシアに幸村はしばらく考える素振りを見せる。
「校舎の裏側にある森かな?この時期はまだポケモンゲットの講座ってまだやってないと思うし」
「...ありがと。後ごめん、今日授業サボるね」
「...うん、わかった」
本来なら常勝を意識しているバトル部員(まだ仮入部だけど)がサボりとは何事だと真田が居れば怒る所だが、幸村はそんなことはしなかった。
...いや、出来なかったのだ。
(...あそこまで精神的に追いつめられてるフェリシアなんて、見たくない)
と、思う幸村だった。
「...あれ、そういえばあの森って、『彼』がよくいるって蓮二が言ってたような...?」
裏側の森について説明しよう。
リッカイ学園の所有するこの土地は、主にポケモンゲットの実践講座で使われており、森と言っても広大な敷地内には原っぱや湖、川もあり、野生のポケモンも沢山生息している。白波研究所よりは小さいが、それでもかなり広い。
幸村も言っていた通り、今の時期は人影すらなく、聴こえてくるのは風の音とポケモンの鳴き声のみ。
「...静かな所だね」
「ヒコ」(うん)
フェリシアとフィアンナがある程度森の中を歩いていると、静かな湖畔に出た。
「しばらく、ここで休もっか」
「ヒコ!」(うん!)
「そうと決まれば、みんな、出ておいで!」
腰についたボールを4つ、放り投げる。
「みんな、しばらくここにいるから、自由にしてていいよ」
ポケモン達がそれぞれ駆け出して行くのを見届けて、フェリシアはソックスとブーツを脱ぎ、両足を湖につけ、上半身は芝生へと倒した。