第20章 母の愛情
そして昼食。
フェリシアは真田の母の手伝いをしていた。
真田家は男所帯らしく、真田の母は一瞬でフェリシアのことを気に入ってしまったらしい。
「ごめんなさいねフェリちゃん、手伝ってもらっちゃって」
「いいえ、私が好きでしてることですから...それに、」
「それに?」
フェリシアには母が居ない。父であるプラターヌ博士は昔からモテる人だったが、結局現在も独身を貫いている。
母と一緒に料理を作る。
フェリシアが憧れていた事だった。
「い、いえ!何でもないです!あ、お水の量はこれくらいで良いですか?」
「...えぇ。大丈夫よ」
真田の母は何か言いたげだったが、そのまま調理を進めた。
...台所の入口の陰で、次男が聞き耳を立てているのを知りながら。
そして数分後。
「よし、出来たわ。フェリちゃん、これを持っていってくれる?」
「はい!」
今日のお昼はおにぎりと豚汁。
フェリシアが大量のおにぎりが載った盆を運ぼうとした時だった。
「...俺も手伝う」
「真田君」
最初から居たのか本当に今来たのかはわからないが、まさか気配(波動)を察知出来なかったのか。
どれだけ浮かれてたのかがわかった。
「あら弦一郎、ありがとう。じゃあこれ持っていって?」
「はい」
「じゃあ、お願いね♪」
真田の母が軽くウインクしたことを知っているのは、フェリシアの足下で皿を運んでいたフィアンナだけだった。
「...やっと、弦一郎にも春が来たのね♪」
...なんか盛大に勘違いしてる?
長い廊下を歩くフェリシアと真田。
お互い、まだ若干ギクシャクしているので、二人の間に有るのは沈黙のみ。
その沈黙を先に破ったのは、フェリシアだった。
「...真田君のママさん、良い人だね」
「...そうか?」
「うん。何か、うらやましいな」
「?...お前にも、母が居るのではないのか?」
「居ないよ」
「は?...しかし、」
「『父がいる』...けどね、パパがいるからママがいるとは限らないよ。それに、私のパパ独身だし」
「じゃあ、お前は...」
「養子だよ」
「?!」
絶句する真田。
フェリシアは更に続けた。