第13章 誰が為に戦う
緑谷たちの眼前で、脳無と呼ばれた改人が圧倒的な力をもって相澤を屈服させる。
暴力をその身に受け続ける担任の姿に、緑谷たちは足がすくんで、逃げ出すタイミングを失ってしまっていた。
「緑谷ダメだ……さすがに考え改めただろ……?」
峰田が今すぐにも泣き叫びそうな口を押さえて、震える声を絞り出す。
先ほどまで冷静だった蛙吹さえ、半分水面に顔を沈め、ケロ…と不安そうな声を発した。
どうしよう、どうしたらいい?
考えを巡らせていると、出入り口付近で緑谷達を散らした、霧状の敵がリーダーの男の隣に現れた。
「死柄木弔」
リーダーの男の名称らしい言葉を発して、黒霧と呼ばれた敵は、死柄木の言葉を待った。
「…ここから見えたけどさ…扉、開いたよな?お前…13号はやったのか?」
「行動不能には出来たものの、散らしそこねた生徒がおりまして…1名逃げられました」
「……………………は?」
ガリ、ガリガリガリと、死柄木が両手で自分の首筋を引っ掻き回す。
感情を抑えこむかのように発せられた彼の深い深いため息が、緑谷達の不安感を煽った。
「…黒霧おまえ…おまえがワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ…さすがに何十人ものプロ相手じゃ敵わない…ゲームオーバーだ…」
帰ろっか、と死柄木が声を発し、何かを黒霧と話し合うために緑谷たちに背を向けた。
「気味が悪いわ、緑谷ちゃん」
「うん…これだけのことをしておいて…あっさり引き下がるなんて」
突如。
ぐるりと振り返った死柄木が、一瞬で緑谷達の前に駆け寄り、距離を詰め、掌を蛙吹へとかざした。
「けどもその前に」
平和の象徴としての矜持を少しでも、へし折って帰ろう!!!
不気味な笑みを浮かべながら、そう言い放つ死柄木に、緑谷は蛙吹の頭が崩れるビジョンを思い浮かべた。
一瞬の出来事。
誰も身動きができない状況で、一人。
ボロボロの身体を無理やり動かし、死柄木を視界に捉えた相澤が目を見開いた。
「……本っ当…嫌になる程かっこいいぜ」
イレイザーヘッド、という死柄木の声に反応するかのように、脳無が掴んだままの相澤の頭を、コンクリートの地面に叩きつける。
振り向いた死柄木がまた口を開こうとした瞬間。
ものすごい速度で飛んできた向が、ドォン!という大砲のような音を立てて、脳無を蹴り飛ばした。