第11章 嵐の前の騒々しさ
『……はー……』
クラスのメンバーとバスに乗り込む直前、向はまた深くため息を吐いた。
「どうしたの?向さん」
『…はぁ。出久は無害で可愛いね』
「えっ!?可愛い!?」
『本当、可愛いは正義だよ』
女子に可愛いって言われた…!なんて感動の嵐に身を震わせる緑谷を置いて、向はバスに乗り込んだ。
運転席のすぐそばに立ち、眠そうにしている相澤と目が合った。
「…後ろから詰めろ」
『乗り物酔いがひどいので先生の隣がいいのですが』
「お前、個性で飛び回っておいて何が乗り物酔いだ」
いいから、座れ。
と取り合ってくれない相澤にももう一度ため息をつく。
向は少しだけ埋まっている後部座席の方へと歩いていき、まだ誰も座っていない2人がけの席に腰掛けた。
女子としてはいささか着替えに時間をかけなさすぎではないかという好タイムで駐車場に現れた向は、男子の集団の中で唯一の女子となっている現状に、特に気後れしている様子はない。
「向さん、隣いいかな?」
なんて礼儀正しく許可を取ってきた緑谷は、「いいわけねぇだろ」と言い放った爆豪に背中を蹴られ、バランスを崩して向の隣に倒れ込んで手をついた。
そんな爆豪と痛がっている緑谷を眺め、向は、はっきりとした声を発した。
『…いいよ、座りなよ出久』
「えっ、でも」
「聞こえなかったかデクてめェ、そこは俺が座んだよ!!!」
一部始終を見ていた向は、寝不足でくまの出来ている目で爆豪を睨みつけ、こんなことを言い出した。
『何も悪いことしてないのに人の背中蹴るような人とは隣に座りたくない。勝己より出久がいい。謝らないなら、ここ座らないでよ』
「………は……?謝るだァ…!?」
「だ、大丈夫だよ向さん!かっちゃんも、向さんの隣に座りたいならそう言ってくれればわかるのに…!」
「死ねカス、そんなこと言えるか!!!」
「言、言わないから、こんなことになってるんだろ!」
(((いや緑谷…なかなかに、「向の隣がいい」とは誰だってハードル高くて言えねぇよ…)))
また白熱してきた緑谷と爆豪の言い争いに、周りの生徒たちがそんな感想を抱く。