第10章 2人だけの秘密
始まって30分。
不意に、向の肩に重さを感じた。
仕事で疲れていたのか、限界まで起きてくれていたらしい相澤は、向の肩に頭を乗せて、静かに寝入ってしまっていた。
触れている肩と、すぐ近くにある彼の顔を見つめて。
『………。』
ただ、ただ、この時間が愛しいと感じた。
2人だけの世界で。
2人だけの呼吸音を聞いていたくて。
どちらにせよ、こんな状態ではこの先の映画の展開なんて、全く頭に入ってこないのだから。
そんな理由をつけて、テレビを消した。
(…目を覚ましたら、どんな顔するだろう)
いつも仏頂面の彼のことだ。
特に表情を動かすことなく、「眠い」とだけ言って部屋に戻ってしまうだろうか。
無音の時間を過ごしている彼の眠りを妨げないように、声を部屋に響かせることなく、本当に小さな声で、おやすみ消太にぃ、と囁いた。
睡魔に勝てず、目を閉じた。
意図的に倒れこんだ先にいた彼女は、重い頭を自分の肩から落とすことなく、無言のままにテレビを消した。
(…あれだけ楽しみにしてたのに)
映画、見なくていいのか、と問いかけたい。
どうしていつも自分より俺を優先するのかと。
なぜいつもそんな声で俺を呼ぶのかと。
聞いてみたい。
けれど、聞いてしまったら。
この関係に終わりが来てしまう気がした。
まるで拾ってきた仔猫を大切に、大切に、過保護に扱って。
その手に抱くことすら恐ろしく感じて近づけない。
そんな臆病と疑念と切なさだけが詰まった毎日。
常に誰かが自分のそばにいる、独り静かな心地よさとは無縁の毎日。
独り生きていた頃が懐かしくて恋しい。
けれど、もう手放せそうにない。
叶うことなら
いつまでも
彼女の香りと、肩に埋もれて
泥のように眠ってしまいたい