第90章 友さえ罵れ
その時。
頭上、空高く。
一人のヒーローが彗星のように飛んで現れた。
彼は着地と同時に男へ両手で飛びかかり、爆風を放ちながら組み合って、苦々しげに男の名前を呼んだ。
「全て、返してもらうぞオール・フォー・ワン!!」
仇敵の登場に一瞬も気後れすることなく。
男は嘲笑うように言葉を返した。
「また僕を殺すか、オールマイト」
「向少女!!!しっかりしろ!!!」
街を破壊しながら乱闘を続けるオール・フォー・ワンとオールマイト。
崩れ落ちている彼女の姿を見て、オールマイトが戦いながら声をかけた。
「衰えたねオールマイト」
「貴様こそ、なんだその工業地帯のようなマスクは!?だいぶ無理してるんじゃあないか!?」
爆豪を取り返し、敵連合もろともオール・フォー・ワンを刑務所へブチ込む。
そう宣言したオールマイトに乾いた笑い声をあげ、オール・フォー・ワンは左腕を個性で増強させ、向にぶつけた衝撃波より何倍にも膨れ上がった威力の衝撃波を放った。
激しい衝突音を立てて。
オールマイトがビルを何棟も巻き込みながら、数百メートル先まで弾き飛ばされる。
「オールマイトォ!!」
「心配しなくても、あの程度じゃ死なないよ。だから…ここは逃げろ、弔。その子達を連れて」
さあ行け、とオール・フォー・ワンは黒霧の個性を強制解放させ、死柄木を促した。
「先生は…」
と問いかけた死柄木の言葉をかき消し、ズドォ!!と重い音を響かせて舞い戻ってきたオールマイトが怒鳴った。
「逃がさん!!」
「常に考えろ弔、君はまだまだ成長出来るんだ」
「行こう死柄木、あのパイプ仮面がオールマイトをくい止めてくれてる間に!」
コマ、持ってよ。
Mr.コンプレスのその言葉を号令とするかのように、ヴィランたちは爆豪と向を取り囲んで身構えた。
「…っおい深晴!!立てや!!!」
爆豪が彼女に怒号を飛ばすのと同時。
「…深晴」
ポツリ、と。
死柄木が向の名前を呼んだ。
爆豪とヴィラン達が戦闘を始めた横で、死柄木は彼女に歩み寄り。
目線を合わせた。
「…おまえは悪くない」
『…弔、私…飛行機…』
「そんなことどうだっていい」
死柄木は彼女の言葉を遮って、言葉を続けた。
「俺と…一緒に行こう」