第10章 2人だけの秘密
「ただいま」
現時刻は夜20時過ぎ。
仕事から帰ってきた相澤は、一瞬だけリビングに顔を出して挨拶を済ませた後、自室へとすぐに入っていった。
いつもの行動に不審な点は見られない。
リビングのソファに腰掛けていた向は『おかえり〜』、ともうリビングから立ち去って姿が見えない彼に声を飛ばした後、また読んでいた雑誌に視線を落とす。
仕事着のヒーローコスチュームから部屋着へと着替えてきた相澤が、いつもと変わらない様子でリビングに再び現れたのが向の視界の端に映った。
相澤は冷蔵庫から水の入ったペットボトルと、氷を取り出し、いつものようにセッティングを終えると、向の方へ振り返る。
(………ん?)
ふと、すぐそばまで近寄ってきていた向の剣幕に気づき、違和感を感じた。
バチッと二人の目が合った瞬間、向は真顔のまま目を見開き、いつも張ることのない声を無駄に張り上げた。
『…第2回』
「……は?」
『相澤家、家族会議ー!』
「明日に持ち越し」
『お待ちなさいな。今日という今日は反省してもらうから』
消太にぃ、他人のフリが下手すぎやしないかい?
そう言うと、向は腕を伸ばして、ビッと相澤の顔を指さした。
自分の顔の至近距離に指を出された相澤は、その向の手を眺めた後、人に指をさすな、と向の頭を鷲掴んだ。
『いたたたごめんなさいもう指差しません』
「今日はどうだった」
『あっ、うん…いや、真面目な話、今日焦凍に言われちゃったんだよね』
「轟?…なんだって?」
『お前、相澤先生に目をかけられてるよなって』
「その根拠は」
『やたら消太にぃが私に絡んでくるからだって。合理性がモットーな人間が興味ない奴にわざわざ時間割いたりしないだろうからって』
(……よく見てんな)
相澤はダイニングテーブルとセットになっているイスに腰掛け、向が会話をしながら並べていた食事を眺めた。
毎日1品、向は相澤の好物を献立に含んでいる。
好物というよりは「普通よりちょっと好み」程度の認識しかないが、それでも毎日、そういう料理が労力なく口に出来るようになったのは、彼女と暮らして得た一つの利点だ。