第87章 「友達だろ」
<<ーー誰よりもトップヒーローを追い求め、もがいてる。ーーー「隙」と捉えたのなら、敵は浅はかであるとーー>>
テレビから。
記者会見の言葉が聞こえてくる。
(……あぁ、こいつの声。嫌いだ、気に食わない)
ヒーローのくせに。
俺から深晴を奪った。
大嫌いだ。
おまえが嫌いだ。
<<現在警察と共に、調査をーーー我が校の生徒は、必ず取り戻します>>
(…取り戻す?ふざけるな……初めから、深晴は俺のものだ)
「ハッ言ってくれるな雄英も先生も…!そういうこったクソカス連合!!!言っとくが、俺ァまだ戦闘許可解けてねぇぞ!!」
「……………………………深晴」
死柄木が彼女の名前を呼んだ。
爆豪の隣に立ったまま、「仲間」たちに背を向け続けていた彼女が振り返った。
向はただじっと死柄木を見つめるだけで、隣で敵意を剥き出しにしている爆豪に一瞥すらくれてやらない。
「…ちょっと、向ちゃん!危ないわよ!自分の立場…よくわかってるわね、小賢しい子!」
「向、退がれ」
「懐柔されたフリでもしときゃいいものを…」
「したくねーモンは嘘でもしねえんだよ俺ァ!」
重大な事実に気づいていない様子の「仲間」達の声を聞き、死柄木は床に転がった「手」を捉え続けていた視線を、ようやく爆豪達の方へと向けた。
(ーーーあぁ、このガキ)
視線だけで射殺すような殺意を爆豪がまともに受け止めて、「敵」であるはずの向の前へと移動した。
まるで彼女を庇うかのように。
「……手を出すなよおまえら…こいつは…大切なコマだ。…それでだ………深晴、おまえはどういうつもりなんだ…?俺は…おまえを信じてそいつの手枷を外してやったわけなんだが……」
死柄木は同じ言葉を繰り返し、繰り返し。
「……そんなわけないよな……そんなわけないんだ……違うよな?」
ひどく狼狽えて、言葉を絞り出した。
「そんなわけない…」
直後。
バーの扉がノックされ、「どーもォ、ピザーラ神野店です」と名乗ったはずの訪問者が、扉ではなく、壁をぶち破って現れた。
雪崩れ込んでくるヒーロー達に、死柄木は目を向けることなく。
向だけを見つめて、呟いた。
「…なんで…?…なぁ深晴」