第78章 日陰者のシンパシー
向晴夏は、向晴香の「個性」が好きだった。
「ねぇねぇ晴香!今度の休みにさ、深晴と俺とデートしようよ。あれ、でも三人だとデートとは言わないのか…?まぁいっか、三人一緒の方が楽しいし。ドライブなんてどうかな、よく深晴が生まれる前、行った場所!」
向晴香は、向晴夏の「個性」が好きだった。
「興味無いわ。それより私と彼女は忙しいの、休みの日だって訓練しなきゃ。晴夏も休みなら自分が継いだ「個性」の扱いくらい、彼女に教えてやってよ。一向に上手くコントロール出来やしない」
子どもながらに違和感があった。
自分の家は、周りの家とはどこか違う。
目に見えないにしても、父の気持ちのベクトルは母へと向いているとありあり分かるのに、母の気持ちがどこを向いているのか、私にはわからなかった。
「…晴香、彼女じゃないだろ。ちゃんと名前を呼んであげなよ」
「どうして貴方は論点がずれた会話しか出来ないのかしら。まさか私の声まで反射出来るようになったの?それはそれは素晴らしいことね、彼女の個性の可能性も広がるというものだわ」
「皮肉屋だなぁ、そんなところも大好きだよ」
「あらそう、私も貴方の個性が大好きよ」
私は日本でいうところの小学校に通い始めて。
英語には「Like」と「Love」という違いがあるのに、「好き」という日本語にはそのどちらの意味も含まれている事を知った。
ある日のこと。
学校で学んだ文法を使ってみたくて、私は両親に問いかけた。
『Do you like Haruka?』
父は英語を話し始めた私を見て、喜びながら言葉を返した。
母は大学の論文を書く手を止めることなく、ノートパソコンを見つめながら言葉を返した。
「Yes, I love Haruka!」
「Yes, I like Haruka.」
同じ響きで聞こえる言葉に。
同じ意味が含まれているとは限らない。
響きが同じ父母の名前と、父母の間で度々交わされていた「好き」という言葉を聞いて、そんな現実を知っていった。
乏しい感想かもしれないが、返ってきた二人の返答を聞き。
私は思った。
日本語って、難しい。