第77章 破綻者のレッテル
ーーーAM6:15
(……温かい)
暗闇の中、頭の上に重さを感じた。
カイロのように温かいその手の持ち主には、心当たりがある。
梅雨時期。
何年ぶりかもわからないほど久々に涙がこぼれた。
泣くのを堪え切れなかった私を、その場に運悪く居合わせてしまった彼は抱きしめた。
うるせぇ黙れや、なんて言葉を発することなく。
私を引き寄せて、安心させるかのように抱きしめて、優しく頭を撫でてくれた勝己の手は、まるで。
寒い冬の真夜中、静かに揺れる暖炉のかがり火のように温かかった。
(…あぁ、あの人の手と違う)
そう、思った。
彼の手はひんやりしていることが多かったからだ。
そんな幸福な日々を思い出して、私はなおさら泣きじゃくりたくなってしまった。
半ば投げやりな気持ちで子どものように声をあげて泣き始めた私に、勝己は一瞬面食らった顔をした。
そして、身体を一瞬だけ硬直させた後。
ぎこちなく腕を動かして、もう一度私の頭に手を置いた。
その時、確かに思った
この人の手は、とても温かい
ひんやりとして心地よい彼の手とも、熱い彼の左手とも、冷たい彼の右手とも違っている
けれど、一番温かい
彼は誰より乱暴で、誰より辛辣なのに。
私には優しく、私には甘い。
いつもは自分勝手に生きているのに。
他の二人と違って、現状維持を望む私の心に踏み込んでくるようなことはしない。
なんて、可愛い人だろう。
大切にしろだとか、振り回すなとか皆は彼を責めるけど、私はそんなこと望んでいない。
望む前に、大切にされている。
振り回されてなどいない。
私が彼の隣を望み、彼が望んでなどいない中途半端な距離のまま在ることを許してくれているだけのこと。
『……。』
なんとなく、目を開けると。
右手を私の頭に乗せたまま、左腕を枕にして身体を倒し、こちらを見つめている彼と視線が交差した。
数秒見つめ合った後。
彼が、寝てろ、と命令してきた。
いつもと変わらない彼の一貫した態度に、私はとても安心した。
そして、目覚めの挨拶を交わしてから10分足らずして。
私はようやく、ホッとして
彼の手の温もりに安らいで
ゆっくりと、眠りについた。