第76章 役に立つから
ーーー合宿三日目、AM6:05
合宿施設の玄関はしっかりと施錠されており、ランニングに出ようと考えていた爆豪の思惑を完全に打ち砕いた。
朝食の時間まではあと一時間。
若干の空腹感を感じているせいか、自然と爆豪の足はいい匂いが漂ってくる食堂へと向いていた。
部屋を仕切る扉のない食堂へと顔を出すと、生徒たちには見せたことのない「営業時間外」のプッシーキャッツの四人が、低い声のトーンで世間話をしながら朝食の調理をしている姿が目に入ってきた。
「あのさ、私この前ついに結婚相談所のホームページ見てみたの」
「えっ、ほんと?」
「やめときなって、まだ大丈夫だから」
「まだ大丈夫って言い続けてもう何年?本当にまだ大丈夫?もうダメじゃない?」
「落ち着けピクシーボブ、まだ勝機はある」
朝からヘビーな話題を持ち出してきたピクシーボブに、他の三人が必死にエールを送る。
プッシーキャッツがいる厨房からカウンターを挟んだテーブルの一角で、資料を片手にお互いのクラスの特訓成果を報告し合っていた担任たちが爆豪の存在に気付き、声をかけてきた。
「お早う爆豪。もう起きたのか」
「…ランニングしてぇ。玄関の鍵開けろや」
「あ?」
開けてくださいだろ、と近づいてきた相澤に頭を鷲掴まれ、爆豪が抵抗の意思を見せる。
突然の生徒の登場にハッとしたピクシーボブは、「やば」と野太い声で呟き、焦った様子で振り返った。
「おっはー!…げほ、声がまだ作れな……げふ、おっはー爆豪キティ!このせっかちさんめ、ゲフン、朝ごはんはまだだにゃー!今の話聞いてた!?聞いてないよね、よしセーフ!」
「色々とアウトだろ」
「ねこねこねこ!色々とって」
具体的に言ってみろや!!とピクシーボブがハスキーボイスで怒鳴り、爆豪に殴る蹴るなどの暴行を加えそうになったため、虎が彼女を羽交い締めにした。
ハッと鼻であしらった爆豪の視界に、少し離れたテーブルの一角に突っ伏している向と、その彼女の向かいの席で朝食を食べている洸汰に視線が止まった。
ピクシーボブの怒鳴り声で目を覚ましたらしい彼女は、テーブルに投げ出していた頭を爆豪の方へと向け、何度か瞬きをしたあと、軽く手を振ってきた。