第2章 あっち向いてホイが得意な人
黒板の前から移動した彼女は、さっきまで飯田と言葉で戦り合っていた爆豪の隣へと腰掛ける。
((((うわぁ…可哀想…))))
緑谷だけではなく、ほぼクラス全体から同情の視線を集める彼女は、右側に座る明るい髪色の男子に自己紹介をされた。
「はよ、俺は上鳴電気!よろしくな」
『おはよ。よろしく』
「………?」
あれっ、という先ほどの緑谷と同じ反応を見せる上鳴に、彼女は不思議そうな視線を向けた。
他の生徒は既に座席について、HRが始まるのを待っている。
その静かな状況でも、まだ何か言いたげな上鳴に、彼女は問いかけた。
『なに?』
「いや、名前なにかなって」
『……あー、忘れてた。向深晴。ごめん』
「おいおい向、寝ぼけてね?」
『そうかも』
ははは、と大して恥ずかしがることもなく、向は笑い声をあげた。
その親しみやすそうな雰囲気に親近感を覚え、上鳴はさらに向に話しかけた。
「どこ中なん?」
『…んー、内緒』
「どこ住み?」
『その辺』
「いや、秘密主義かよ!」
『ははは』
向は涼しい顔をして、上鳴のアプローチをことごとく無為にする。
つれなくされればされるほど、変な高まりを覚えてしまったのか、上鳴は諦めることなく彼女に質問を投げかける。
「向の個性は?」
『……。』
一瞬笑みを崩した彼女は、真顔に戻って上鳴を流し目で見た。
うるさいな、と確実に訴えているその視線を真正面から受け止めた上鳴だったが、ダメージを受けるどころか、何者かに心臓を撃ち抜かれたかのように「ウッ!」と胸を押さえ始めた。
(…その目、いいかも…!やべぇ、これが青春ってやつ…!?)
ドクンドクンと上鳴の胸が高鳴る。
嘘だ俺にドMの気質はないそんなはずない、とぶつぶつ呟く上鳴の隣で、向がまた口を開いた。
『あっち向いてホイで負けない』
「………へ?…えっ、なにもっかい!」
『残念、二度は答えません』
「なんで!?」
大げさに残念がる上鳴を見て、向がまた、ははは、と笑った。
その笑顔もいいかも、なんて完全にスイッチが入ってしまって向ならなんでもよくなっている上鳴とは対照的に、食ってかかる生徒がいた。