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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第70章 遠い道のり




林間合宿に向かう朝。
昨日仕事から帰ってくるや否や、やけに向にまとわりつき、側を離れようとしなかった相澤が、今朝も変わらずベッドの中でまとわりついてくる。
向は『遅刻するから』と、子どものような抵抗を続けている相澤を窘め、ベッドからずり落ちるように彼の腕の中から逃げ出した。
普段より数段寝起きの機嫌が悪そうに見える彼の顔。
ベッド側に立ち、笑う向の手を相澤が引き寄せ、倒れこんできた彼女をまた抱きしめた。


『…こら、遅刻するよ。昨日今日はやけにくっつくね?』
「落ち着かない」
『…実は私も嫌な予感がする。合宿先、安全なの?』
「…。」


そっちの意味じゃない、と耳元で否定してきた彼の言葉に、言葉を返そうとした時。
寝返りを打ち、転がって向と体勢を逆転させた彼の唇が首にあたり、一瞬のくすぐったさを感じた。


(……!)


ぶつかったわけじゃない。
意図的に、故意的に。
相澤のキスが首元に落とされ、彼の長い指先が向の鎖骨の上あたりの肌を、ゆっくりと撫でた。
唇が触れ合う寸前。
相澤が彼女の瞳を覗き込み、声を発した。


「…おまえをどこへも行かせたくない。叶うなら…ずっと、この家で俺が帰るのを待っていてほしい」


その言葉に、「落ち着かない」相澤の心情と、合宿が近づいたここ二、三日、べったりとくっついてきて側を離れなかった彼の行動理由を察した。


『大丈夫、どこへも行かないよ』
「……!」


ほんの、わずか。
以前とは違う彼女の返答。
目を丸くした相澤に、向はまた楽しそうに笑った。


『どうしてびっくりしてるの?』
「……。」


(……あぁ、そうか)













ちゃんと、伝わっている
















以前とは違う彼女の言葉に。
相澤は身体を起こし、ようやく合宿へと向かう準備を始めた。
相澤より後に家を出る彼女が、玄関先で見送ってくれる姿を振り返り。
いってらっしゃい、と口にする彼女に。


「…あぁ。怪我しないように」


そんな、どの立場から発した言葉なのかわからない事を口にしてしまい、訂正した。


「…ちゃんと、帰ってこい」
『ははは、消太にぃもね』


また、この家に。
そう彼女と約束した相澤は穏やかな笑みを浮かべ、歩き出した。

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