第65章 クソ可愛い
期末試験が終わり、土日を挟んだ月曜日。
テスト返却のみとなっている登校日、緑谷は物思いに耽りながら校門をくぐった。
家でゆっくりしていても、気にかかるのは彼女のこと。
(…向さん、大丈夫かな…)
演習試験が終わった直後。
リカバリーガールの出張所で隣に横たわり、気を失ったままの彼女の寝顔が忘れられない。
あれから何度かメッセージを送っているが、彼女は大丈夫さ、ただの風邪だよ、なんて返事しか返してこない。
(ただの風邪で意識失うって…あり得ないよな)
そう問い詰めても彼女は適当な言葉を返し、取り合ってはくれなかった。
他の生徒たちにはちゃんとした理由を返しているのだろうかと、飯田や麗日に聞いてみたが、同じような返答が返ってきたという。
(直接、聞いてみるか…?いや、でも…)
自分は、衝動的に。
彼女の頬にキスをしてしまった。
何がヒーロー志望、蓋を開けてみれば自分はとんだ許されざる変態野郎だ。
彼女にその気がある素ぶりがあったならまだ許されたかもしれないが、あの様子では確実に緑谷への性的好意など見て取れない。
(あぁ、どんな顔して挨拶すれば…でも倒れた理由は気になるし…轟くん伝いに聞いてみようかな、きっと彼なら誤魔化されても問い詰めるんじゃないか?)
自分の大胆不敵かつ身の程知らずな行いを、悶々と考え続けた土日。
緑谷が安眠を得ることは叶わず、週始めの月曜日だというのに真っ黒なクマの出来た顔のまま、1-Aの教室の前へとたどり着いた。
(…もしかして、持病があるとか…!?やっぱり気になるし、直接自分で詳しく聞こう。向さんに謝って、普段通り話せるようにならないと…!)
なんていったって、これから林間合宿が始まってしまうのだから。
彼女と話せないまま楽しみだった一大行事を終わらせてしまうのは、もったいない。
「あ、おは…」
決意を胸に秘め、教室の扉を開けると。
そこには爆笑する耳郎と、髪を振り乱してものすごい勢いでヘドバンしている向の姿が。
「向さん!!?」と叫びに似た呼び声に、彼女が動きを止め、『…はよ、出久』とボッサボサの頭を彼の方へと向けた。