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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第64章 イレイザー・イン・ヘッド



11歳の三月。
日本へ、母と二人、旅行で訪れて。
久しぶりに楽しかった旅行の帰り、飛行機に乗る直前。
荷物を預けてくるからと、そう言った母が何時間も帰って来なかった。
不安になって、大人に聞くと。
その大人は空港の大きな窓を指差して、私に言った。











「今飛び立った飛行機が、今日、君の国に帰る最終便だよ」













窓から見える、その飛行機を呆然と眺めて。
あぁ、そうか。
なんて、納得した。
おかしいとは思っていた。
ずっと私が「見えなかった」母が、急に笑顔で私を旅行になんて誘ってきた。
それ自体、おかしかった。
夢なんじゃないかと思ってた。
やっぱり、本当に夢だった。











私が空港に置き去りにされたあの日。
茫然とする私が眺めていた窓の向こう。
いくつもの飛行機がハンドル制御を失い、激突しあって墜落した。
最悪で最低な出来事に直面した大人たちは、捨てられた子どもに構ってやっているほどの余裕を失った。
阿鼻叫喚の空港で。
運ばれてくる怪我人と、ガソリンに引火し、地獄のように燃え上がる飛行機を目にした。
ひとまず日本で連絡のついた父方の親戚に預けられ、その後、航空会社側が私に関与してくることは無かった。
母親は父方の親族に対し、音信不通。
警察は母が海外にいると聞き、飛行機墜落事故の捜査を優先し、門前払いを決め込んだ。
消太にぃに引き取られてから一年経たず、高校に上がる直前。
海外から、母方の叔母が申し訳なさそうに彼の事務所を訪ねて来た。
私の高校入学の為の書類を母に渡すからと言って、その書類を受け取ると同時。
今裁判の準備をしているからと、大人の責任というものを果たすことを誓ってくれたが、審議は分からない。













空港を後にしてからも。
私の頭の中に。
鼓膜を引き裂かんばかりの爆破音と、あまりに鮮やかに燃え広がる烈火の記憶が焼きついた。









その日から。
ガスコンロの火にさえ敏感になり、小さな物音にさえ、震えが止まらなくなった。
何人か、医者のお世話になった。
かさむ医療費と扱いづらさに。
優しかった大人達の目から、次第に優しさが失われていくのがむごいほど理解できた。

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