第63章 十年目の片想い
小さな頃。
ピアノの発表会で、恥をかいた。
私の直前に演奏を終えた同い年の女の子は、指が8本ある個性の持ち主で。
彼女は、その年齢では考えられないほど、素晴らしい名曲を見事に弾きこなした。
彼女の演奏を、舞台脇から聞いているうち、指先がすっかり血の気を失って。
両足がガタガタと震え始めたのを覚えている。
たくさん練習して、努力して
遂に迎えたその晴れ舞台
私は鍵盤を一度も叩く事なく、青白い顔をしたまま、全く動き出さない私を心配した大人たちに連れ出される形で、発表会を後にした。
弾きたくなかった。
場違いだと思った。
あの発表会に出ていた子どもは誰もが、音楽家向きの個性を持っていたのに。
自分はただピアノが好きなだけ。
気づいてしまった。
私の指から奏でられる音はあまりに幼く、拙い演奏。
人に聞かせるにはあまりに「恥ずかしい」。
恥をかきたくなくて、逃げ出した。
その日から
何をするにも、周りの子どもの「個性」が気になって
部屋に閉じこもり、自分の「個性」に向いているものは無いのかと、片っ端から本を読み漁った
そして、気づいた
私の「個性」はヒーローに向いている
なりたいか、なんて感情は二の次で
その日から、将来自分がヒーローになった時、役に立ちそうなものを創造し続けた
「まだ子どもなんだから、そんなにしっかりしなくていいんだぞ」
父は私にそう言った。
「百は本当にしっかりしてるわね。でも、もっと子どもらしくしていいのよ」
母は私にそう言った。
(…だって…)
努力しなくては。
また恥をかいてしまう。
ヒーローになって、その先は?
ヒーローに向いている「個性」を持っているのなら。
尚更、頑張らなくては。
ヒーローに向いている「個性」を持っているのに
もしまた、他の子より自分が劣っていたら
自分には何も残らない
考えただけで足が震えた。
もう、あんな思いはしたくなかった。
恥をかきたくなかった。