第62章 悪くない
「それぞれステージを用意してある。10組一斉スタートだ。試験の概要については、各々の対戦相手から説明される。移動は学内バスだ。時間がもったいない。速やかに乗れ」
相澤の号令を受け、生徒たちがそれぞれのバスに乗り込んだ。
演習場へと向かうバスに揺られながら。
向はぼんやりと前方の座席に座り、他の三人と距離をとって座る相澤の背を眺めた。
ーーー向少女、相澤くんから聞いたよ
「君も、あの屋上にいたなんてな。全く気づかなかった、どんな個性の応用なんだい?」
教職員の仮眠室。
保須から帰ってきたばかりの、昼休み。
相澤から言伝を受け、そこでオールマイトに告げられた。
「これが、私のトゥルーフォームさ。覚えているかい、ヘドロ事件のあの日の話を」
一向に話し出すことなく、ソファに座り、姿勢を正したままの向の様子を伺いながら。
オールマイトは、酷く痩せこけた顔をじっと向に向けたまま。
彼女の答えを待った。
『…オールマイト』
「うん?」
『貴方と出久の個性は似過ぎてる。彼に何をしたんですか?』
「…何もしちゃいないよ」
『私はあの屋上にいました。貴方の話だけじゃない、出久の話だって聞いてた』
ーーー個性がなくても
ーーーヒーローになれますか
あの屋上で、自分は無個性だと告白した少年が。
次に見かけた時には、彼と似た超パワーを使えるようになっていた。
「もし仮に私の個性と、彼の個性に関係があったとして…君はどうしたいんだ?」
『私も貴方のような個性が欲しい』
「君にだって、ご両親からもらった素晴らしい個性が宿っている」
『私の個性じゃ足りない』
『貴方ような力が、欲しい…!』
そう切実に訴えてくる彼女の言葉に。
オールマイトは、目を見開いた。