第61章 好きこそものの上手なれ
目が覚めて、スマホを確認し。
朝食を済ませ、スマホを確認した。
制服に着替えて、もう一度スマホを確認し。
彼女に電話をかけることにした。
<…おはよ>
「…おはよう。起きてたら悪ぃ」
<寝坊したわ、あーもー、心臓飛び出るかと思った>
ありがと、というふにゃふにゃした声が遠のいた後。
もう一度、彼女が最愛の布団に倒れこむ音が聞こえた。
「深晴、二度寝するなよ」
無言になった向を心配して、轟が声をかけ続ける。
時刻は、7時過ぎ。
待ち合わせ時間より、20分早い。
「メッセージ、既読つかねぇからもしかしたらと思った」
<んー……助かったわ…急いで出るけど、ちょっと遅くなるかもしれないから先行ってていいよ>
「……待ってる」
<……あー……わかったー>
保須から帰ってきてから、轟が押し切る形でスタートした向と一緒の登校。
下校も一緒に提案したが、爆豪がブチギレて譲らなかったので渋々諦めた。
『じゃああとで』「あぁ」なんて言葉を繰り返しても、なんだかずっと通話を切りたくなくて。
そんな心境が伝わったのか、彼女は自分のスマホをスピーカーモードにしたらしい。
<なんか問題出して>
という、彼女の言葉に。
まだ会話している余裕があるのかと、轟が自分の腕時計に視線を落とす。
「…科目は」
<古文>
彼女に問題を出しながら。
(…相澤先生、先出たのか)
なんてことを考えて。
少しだけ心が凪いだ。
「……なぁ、深晴。今日相澤先生は?」
<…先生がどうしたの?>
「起こしてくれなかったのか」
<……なんの話?>
じゃあ、顔洗ってくるから、と。
向はブチッと通話を切った。
(…やっぱ、最近距離がある)
学校で何を話していても、完全に私的な話をしているようにしか見えなかった相澤と向。
けれど最近その二人を見ていても、生徒と教師の立ち振る舞いから逸脱したようには見えない。
たまに、どこかぎこちなさすら感じる。
(…別れた?喧嘩にしちゃ長すぎる。どっちかが地雷を踏んだか)
「焦凍、頑張ってねー」
テスト期間だということを承知の上で、軽く激励の言葉をかけてくる姉に。
「……あぁ、頑張る」
なんて言葉を、玄関先で返した。