第60章 仮初の平和
「組の采配についてですが」
演習試験に向けての職員会議。
単刀直入に。
相澤が資料に載ったヒーロー科演習試験のペアを、他の教師陣に提示していく。
「轟。一通り申し分ないが全体的に力押しのきらいがあります。そして八百万は万能ですが咄嗟の判断力や応用力にかける」
そして、と言葉を続けた相澤に、プレゼント・マイクが視線を向ける。
相澤はその視線に気づきつつも、目を合わせるようなことはせず、先ほどの二人に関しての補足をした。
「この二人と、向だけは三人一組。能力に関する理由は轟と同じ、個性任せな場面が多いこと。そして何より、最近何事に関しても意欲の低下が目立つ。自信の喪失か、もしくは将来像が見えなくなったか…まだ調査中ですが、どちらにせよ俺が轟と向の個性を消し、近接戦闘で弱みを突きます」
「ふーん、三人一組かぁ」
肘をついていたミッドナイトがじっとリストに目を走らせて、片手をあげて発言する。
「向さんをオールマイト組に入れるのは?なんかいつも、全力で個性使ってないイメージがあるのよね」
「それだとこの期末の都合上、物理攻撃主体のオールマイトさんは相性が悪い。反射でゴールまで向かえば楽勝ですからね」
「なるほど!向さんの個性相手だと、確かに先輩が適任ですね」
「親類縁者ト云フノハドウナノダ?他ノ保護者ハ納得スルノカ?」
「クレームがくんのはめんドッちぃが…逆に向を他の教員にあてると完全なハンデが出来上がっちまうからな」
相澤は視線をオールマイトに向け、その視線に気づいた彼が、相澤に視線を向けた。
議論を交わした後、「「「異議なし」」」という教職員の言葉が揃う。
その声を聞き、相澤はまた司会を進行させた。
「次に緑谷と爆豪ですが…」
職員会議が終わり、職員室のデスクに座った。
その直後。
自分の机へと無造作に置いていた会議資料が、はらりと床に落ちた。
無感情で拾い、ふと。
轟、という文字と。
向、という文字が並んでいるのを見た。
(…。)
「YOイレイザー!!子猫ちゃんと、あれからどうよ?」
カマをかけてきた同期に。
相澤は、答えた。
「しばらく触れてない」
「あー…なるほどね、しばらく触っハァアァアアァァアアァアアン!!?」