第59章 梅雨にのぼせる
勝己。
雄英高校1-A、いずれトップヒーローになる。
この高校に入ってから、一人のクラスメートに気を取られ続けてる。
そいつは、右隣の座席に座るベクトル女。
雄英に入学するまで。
苛立つことがあるとすんなら、それはほぼ全てデクのせいだった。
けど、雄英に入ってから。
デクなんて比にならねえような苛立ちを、あの女に味わわされ続けてる。
「おい」
『…なに?』
「何してやがる」
『んーとねー………』
「……………」
『……んー……加工アプリを試してる』
期末二週間前。
昨日も深晴を教え殺してやってたら、あいつが俺にスマホを向けてきた。
「…貸せや」
犬だの猫だのネズミだの、人の顔を認証して加工を施すくだらねぇアプリをダウンロードしたらしい。
んなことしてんなら、お粗末な脳内に一つでも古文単語をインプットすりゃいいものを。
俺はスマホをぶんどり、深晴にカメラを向けた。
「…………」
『………?』
そのスマホ画面に表示された深晴の顔を見て。
俺は眉間にシワを寄せ。
メキッとスマホを軋ませる勢いで指先に力を込めた。
『ちょ、ごめんってちゃんと勉強するから!』
なんて必死に謝ってくる深晴を、スマホ越しに眺めながら。
思った。
(クッッソ可愛い)
ムカつくほど可愛い。
つまんねぇアプリ流行ってんな、なんて思ってた中学の頃の自分をブッ殺してやりたい。
そんな可愛い顔しといて今さら何が加工だ殺すぞ、と口走りそうになって。
「………殺すぞ」
とだけ、口に出した。
『ごめんって』
スマホを放って返す前に一枚写真を撮って、俺に送れや、と深晴に命令した。
それが昨日の放課後の出来事。
そして昨日の夜。
いつまで経ってもあいつが写メを送ってこねぇから、催促した。
すると、いつ撮ったのか、加工アプリで俺を撮った写真が何枚も送られてきた。
おちょくってんのかブッ殺すぞ、と聞いただけの俺の言葉に、あいつはからかうような言葉を返し。
いつものようにメッセージで言い争いがスタート。
結局、喉から手が出るほど欲しかった深晴の写真は手に入らなかった。