第51章 君にお世話を焼かれたい
向は自分の手をじっと眺めて、軽く息を吐いた。
「……おまえの個性が、役に立つな」
そう言った轟の声に、向が顔をあげる。
飯田と緑谷、轟からの視線を集め、向は困ったように笑った。
『そうだよ?優秀だからさ。勝手に持ち場離れた罰として夜通し働けってさ。その代わり明日は夕方から』
ははは、と少し照れ臭そうに笑って。
向はそれぞれの目の前に置いたままの錠剤を眺めた。
『あれ、看護師さんに放置プレイされてるの?』
「うん…なんか僕たちの後に、今回の事件の怪我人が搬送されてくることに決まったらしくて…「飲めるよね!?ヒーローだもん助け合って!お願い!」って言われました」
『せめてコップぐらい欲しいところですね』
彼女はそう言いながら、三人の荷物とは別に浮かべていた白濁色のビニール袋から、水とスポーツドリンクの500mlペットボトルを取り出した。
それぞれ一本ずつ、一人当たり計2本の飲料を三人のサイドテーブルに置いていく。
『私と焦凍が泊まってるホテルに戻って焦凍の荷物持ってきた時、フロントで買ってきた。あとちょっと残ってたお菓子、小腹が空いたらどうぞ』
向は轟が見覚えのある銀色の菓子箱を開けて、まだ若干残っていたお菓子を三人に分けた。
「「「優秀…!」」」
『ははは、褒めても5万円くらいしか出ないよ』
「結構出るね!?」
向は飯田のベッド脇に座り、両腕が吊るされた状態の彼の錠剤が入った袋を手に取った。
『薬飲むの手伝うよ』
「あぁ、ありがとう」
『じゃあ先に口に薬入れるね』
両腕を負傷してしまったせいで、甲斐甲斐しく世話を焼かれている飯田を、じっと轟が見つめる。
『あーん』
「ッすまない、もっと別の言葉がないだろうか!」
『別の言葉?はい天哉くん、お口開けてくださーい』
「なんかもっとダメだな!!普通に頼む!!」
『注文が多いなぁ。開け、セサミ!』
「普通にと頼んだだろう、それにそこはセサミじゃなくてゴマだ!!」
『普通には、あーんってやつじゃないの?ほら、あーん』
「……ッ!!!」
「…なんで俺は片腕だけなんだ」
ボソリと呟いた隣人の声を遠くで聞いて。
緑谷は穏やかな日常に戻ってきた、そんな安心感に包まれながら。
そっと、意識を手放した。