第48章 いつもお世話になっております
都心にあるヒーロー事務所にJRで向かう途中。
向と轟は隣同士の二人がけの座席に座って、他愛ない話を続けていた。
『それでさ』、と、どこからかき集めてきたのか、すべらない話をいくつも轟に聞かせてくる向は、まるで遠足に向かう子どものように楽しげだ。
これから自分の大嫌いな人間の顔を拝みにいくのかと、朝から陰鬱な気分に浸っていた轟は、話のオチで大爆笑をさらわれることはなかったが、あまりに向が楽しそうに笑って話す姿を見て、穏やかに微笑んで彼女の言葉に耳を傾け続けている。
『あっ………』
「……どうした?」
『まずい、重大なことに気づいた』
ハッと急に話を途中で打ち切ってしまった向は、真っ黒なリュックからガサゴソと贈り物用に包装された箱を取り出した。
『ねぇ、エンデヴァーさんって甘いもの食べれる?』
「…食わねぇな」
『やらかした…!』
どうやら、うなだれる向が持っている箱は菓子箱らしい。
そんなもん別にいらねぇよ、と息子のお墨付きを貰っても、向は楽しげな雰囲気から一変し、深くため息をついてしまった。
「菓子折なんてそんなかしこまったもん、あいつには必要ねぇよ」
『いやいや、必要だよ。私は他人にお世話になりにいくわけだから』
「じゃあ俺が腹減って、来る途中におまえから奪ったってことにする」
『そんなジャイアンみたいな息子の一面、お父さん信じないと思う』
「腹減った」
ジッと見つめてくる轟に、向はもはや用無しとなってしまった菓子箱を明け渡す。
『降りたら何か他のもの買おう』
そう呟く向の隣で、テープが貼られた部分から丁寧に包装紙を剥がそうと試みた轟が、ものの数秒で挫折し、ビリビリと雑に破き始めた。
クールそうに見えるけどキミって案外血の気多いよね、と指摘してきた向に、「普通だろ」と轟が返事を返す。
「中身、何だ?」
『和菓子の詰め合わせ。見事にしょっぱいもの一つも入ってないんだよね』
パカっと轟の膝の上で開けられた銀色の菓子箱の中には、数種類の小包装になった和菓子が敷き詰められている。
「…深晴、まずいぞ」
目的駅に着くまでに選べねぇ…!とシリアス顔で見つめてくる轟に、向はフッと噴き出した。