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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第48章 いつもお世話になっております




『天哉』


体育祭明け、よく自分を呼ぶ彼女の声を聞いた。


「あぁ、向くんか。どうした?」
『あのさ、ーーーーーー。ーーー?』
「そうだな、ありがとう」
『ーーー。』


嬉しい。
彼女が僕に声をかけてくることなんて、珍しいような気がしたからだ。


「……あぁ、ありがとう」


彼女と目を合わせて、僕はきちんと返事を返した。


『……ーーー。ーー?』


けれど、彼女になんと言われたのか、一言も覚えていないのは何故だろう。
しっかりと人の話はいつも聞いているはずなのに、何も記憶に残っていない。
惜しいことをした。
せっかく、何度も二人きりで言葉を交わしたのに。


『天哉』
「…向くん、大丈夫だ。ありがとう」


僕は馬鹿の一つ覚えのような返事を返し続けて。
何曜日だっただろう。
いつか、彼女が立ち去る僕の腕を捕まえて、宝石のような瞳で見上げてきた。
あまりにその様子が美しかったからだろうか。
その時の出来事だけは、鮮明に思い出せる。
















『手伝おうか?』



















そう問いかけてきた彼女の言葉の意味がわからず。
僕は一瞬だけその言葉の意味を考えて、問いかけた。


「……何をだ?すまない、さっきは何の話をしていた?ド忘れしてしまった。本当にすまない!」
『……忘れてるわけじゃないよ、聞こえてないんだよ』
「いや、そんなことはない。きちんと君の声は届いているぞ!」
『……届いてない。けど、今の言葉は届いたんだね』


なんでだかわかる?
とまた意味深なことを問いかけてくる彼女の表情が、なんだかとても所在なさげで。
僕は一向に答えが浮かばない自分の頭の足りなさを責めた。


「すまない、なぜだ?」
『そんなに謝らなくていいよ』
「すまない、兄の病院へ行かなくては!また明日、向くん!」
『…うん』









また、明日










保須市に向かう電車に揺られながら、彼女の困ったような笑顔を思い出していた。
なぜ、そんな顔をするんだと、聞いてやらなかったことが今更になって悔やまれる。


(…忘れてしまうなんて)


せっかく。
対等な「ヒーローを志す者」として、彼女と過ごした大切な時間だったのに。
残念だ。







本当に、残念だ






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