第42章 、おまえが好きだ
「俺は……向に惹かれてる。許されるなら、誰よりもおまえの側に居たい。俺だけを、その眼に映して欲しい」
おまえが、欲しい。
おまえのために、と始め話していた轟の言葉は、彼の願望を伝える形で締めくくられた。
轟からの告白を向がその身に受けると同時。
向の鞄の中で、携帯がメッセージの受信を告げた。
ハッと我に返った向は轟から視線を逸らし、まだ雨が止まない外へと出ようとして、彼がその手を引き寄せた。
「…受け入れなくて良い。雨が止むまで、このまま」
そう囁いて、抱きしめてくる彼の身体を押し退けようとした時。
向は、彼の腕が小さく震えていることに気づいた。
「…っ」
(ーーー応えられない)
帰り道を、二人で歩く間。
彼の腕が、震え続けていたことを思い出した。
(無理だ)
それを、見ないふりした自分を思い出した。
自分が彼を巻き込んでおいて、その手を取って安心させようともしなかった。
「ーーー…深晴」
あぁ
この呼び声に、込められた想いの深さを私は知っている
『……焦凍』
だからこそ
『………私』
耳障りな雨の音が頭に響く。
力強く、抱きしめられた彼の腕の中で。
向はやり場のない両手を、彼の胸に押し当てた。
帰らないと、という彼女の声を聞き、轟は目を見開き、深く、深く息を吐いた。
「…今は、それでいい」
『…今はって』
「いずれ俺の方が、おまえが選びたくなるような男になる」
迷う必要なんてないくらい、と轟は囁いて、もう震えの止まっている腕に、力を込めて。
向から身体を離した。
『…雨、止んだね』
「…深晴」
雨上がりの空の下。
歩き始めた向を、轟が呼び止めた。
「…って、呼んでもいいか」
『…え……うん』
「それと、言ったつもりになってた」
彼女の隣に並び、空を見上げた後。
轟は向を見つめ、優しく笑いかけた。
「俺は」