第38章 救いようがない
「YEAH!!おかえり向!!」
家に帰ると、ハイテンションな挨拶がリビングから爆音で聞こえてきた。
耳をつんざくその声の勢いに面食らいながら、リビングへと入ると、そこには赤い顔をして、ローテーブルの前で座り込んだプレゼント・マイクの姿が。
『マイク先生…!』
いつもながら喜びの声を上げる向に、マイクは片手を上げ、「おかえり!」ともう一度声をあげる。
どうやら飲み散らかしていたらしいテーブルには酒臭い空き缶が散乱し、空いたワインのボトルも数本、ローテーブルに放置されている。
この惨状を許しているということは、おそらくそういうことなのだろうと、ソファに横になっている相澤の顔を覗き込んだ。
(…寝てる)
「こいつ一瞬でボトル何本か空にしちまったんだけどよ、なんか知らない?」
『…珍しいですね、こんな早い時間から呑んだくれるなんて。お酒口にしてるの初めて見ました』
「大して飲まねぇからなこいつ。中途半端に酒に強いと楽しい気分にもなれないまま、二日酔いになるんだと」
『………お酒強いんですか』
「まーーーー俺よりはぜんっぜん弱っちいけどな!!!」
そう言うマイクは「お水をください、もう歩けません」とローテーブルに突っ伏し、向に助けを求めた。
現時刻は19時。
何時から呑んでたんですか、と事情聴取を行うと、18時過ぎに押しかけてきたという重要な証言を得た。
つまり、一時間足らずでこの二人はビール5缶程度とワインのボトルを2、3本空けたのか、という事実にゾッとした。
『…明日、仕事でしょう。二日酔いになってもしりませんよ』
「なんでこんな飲んじまったんだっけ…思い出せねぇ…HAHAHA!!!アイドンノー!!!ヒューー!!」
『静かにして酔っ払い、騒音被害がすごい』
「あーそうそう、女の話だ。向、彼氏は?」
『話が飛ぶなあ…そんなのいませんよ』
「なんでよ!ツイッターで見たぞ、向と爆豪が街中デートだっつってな!」
『……SNSは恐ろしいですね。…えっ、それ消太にぃにも言いました?』
「見せた」
『何を』
「画像を」
ガッ、と向がマイクの口に水の入ったグラスを押し付ける。
ごぼがぼと流れ込んでくる水を必死にマイクが飲み込み、大きく咳き込んだ。