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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第38章 救いようがない




書き置きを残して、家を出ようと考えた。
彼が目を覚ます前に、出かけてしまおう。
音を立てずに、ひっそりと。
途中までうまくいっていたはずの計画の最中。
ふと、彼の朝食のことを思った。



今日


彼は


一人で朝ご飯を食べるのか



怠惰に、省エネを貫いて今まで生きてきた彼のことだ。
きっと、何もなければゼリー飲料でも食べて済ませてしまうのが目に見えた。
出来る限り、音を最小限に。
彼の好きな焼き鮭のおにぎりと、味噌汁、軽い副菜を作って、テーブルに並べた。
ふと、顔をあげると、リビングの入り口に立つ彼の姿がそこにあった。


「…おはよう」
『…おはよ、早起きだね?』


時刻はまだ、朝の8時を過ぎてすらいない。
いつもなら、まだ起きてくることのない時間帯だ。
起きてしまったということは。


『うるさかった?』
「…いや、そうじゃない」


そう言って口を噤んだ彼に、召し上がってくださいと一言伝える。
鞄を持った私を見て、彼は「おまえは食べないのか」と問いかけてきた。


『うん、もう食べた。少し早めに出たくて』


微かな胸の痛みに知らないふりをして、玄関で靴を履こうと腰を下ろした。
それ以降、何も問いかけてくることのない彼の気配を背中に感じながら、私は靴を履いて立ち上がった。


「…遅くなる前に帰れよ」


そんな優しい言葉をかけてくれた彼の目を、ようやく見た。


(……あぁ、起こしたわけじゃないんだ)


彼の目の下にくっきりと残っている隈を見て、私はまた、愛しさがこみ上げてきた。


『…夜、何食べたい?』
「…なんでもいい」
『和洋中ならどれ?』
「………深晴」


悪かった。


そう、伝えられた言葉に。
私はなんて返していいのかわからず。


『……決めたら、連絡ちょうだい。じゃあ、出かけてくるね』


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