第35章 さぁ原点へ
頬に触れたままの彼の髪から、自分の髪と同じシャンプーの香りが漂ってくる。
向はただされるがまま、相澤の腕の中でその甘い微香に身を委ね、彼の心情を探ろうと、思考を試みた。
『…!』
ぎゅっと。
思考を巡らせようとするたび、向を抱きしめる相澤の腕に力が入り。
ちょうど良い体勢を探すかのように、ふわふわとした髪を揺らして、彼が頭を向の肩の上で傾ける。
完全な、思考妨害。
向は赤面しつつも、同居人の意図を必死に理解しようと無駄な試みを繰り返し、その無意識な妨害により3回ほどそれを阻まれた後。
相澤がぼそりと、いつもとは違う声色で囁いてきた。
「…深晴」
ビクッと過剰反応した向に、相澤は閉じていた目を開き、ゆっくりと、深呼吸をした。
『……あ、あの』
「………。」
『………』
「……おまえ、ガード緩すぎないか?轟にも好きにさせてたな」
『好きにさせるって言い方は語弊がある、距離取ろうとしてる時に消太にぃが来たんだよ。焦凍自身も温めてくれようとしただけらしいし』
「…その解釈は轟としてはなんとも残念だろうに」
『残念?』
「なら、俺に関しては?」
なんで、許してる。
少しだけ、責めるような口調で、相澤は耳元で囁いてきた。
そのなんとも艶やかな声に向が一層恥ずかしさを煽られ、『そ、れは……』と珍しく口ごもった。
「……それは?」
『それは、アレだよ』
「どれだ」
『ソレ』
「どれだよ」
『………。』
「だんまりか」
『自、分だって何も言わないのに』
「…言えないからだよ。ガキじゃあるまいし」
『言えないのはガキだからでは』
「逆だ。わかってるだろ、わがまま言うな」
向は少しだけ眉間にしわを寄せた後。
硬直させていた身体を傾け、相澤の胸へと、少しだけもたれかけさせた。
そのまま。
少しだけの沈黙の時間を二人で過ごして。
急に、ぐいっと向の両肩を掴んで離れた相澤は、向の目を見つめ、呟いた。
「……だい」
『……えっ』
だい、ともう一度。
相澤は目を見開き、さっきよりもはっきりとした声で、告げた。
「第、3回!」
ほんの一瞬、期待した向を裏切って。
彼は告げた。
「ドキドキ!相澤家家族会議!!」