第33章 子どもの事情
ーーーかっこよかったよ
そう言った彼女の声を。
左肩越しに感じた体温を思い出し、爆豪は無意識に、自分の左腕に触れていた。
(……クソが……所有欲の何が悪ィってんだ殺すぞ…!)
どこか、心の内で。
どれだけ突き放しても、懲りずに近寄ってくる彼女のことを、所有物だと思っていた。
どれだけ、雑に扱っても。
向は爆豪のもとを離れない。
そんな気がしていた。
ーーー私は結構、好きだよ。勝己のこと
(ふざけんじゃねぇぞ…!どっちが先だと思ってる……!)
どいつも、こいつも、苛つくな。
何見てんだ。
何聞いてんだ。
モブどもが。
(私は、ってなんだ、ざっけんな!!)
「俺だってそうだわ!!!!」
<<おおっとーー!!爆豪、フィールド登場と同時に爆破と意味不明な言葉をシャウト!!…あれ、どした不機嫌じゃない?っていつもかぁ!!さァいよいよラスト!!雄英1年の頂点がここで決まる!!決勝戦、轟対爆豪!!!今!!!スタート!!!>>
雄英体育祭、1年本戦決勝。
両者睨み合う間も無くスタートコールがかけられ、轟は「威嚇」として、フィールド上の大半を埋め尽くすほどの氷壁を生み出した。
爆豪は爆破で自身の凍結を防ぎ、そのまま覆い被さる氷を掘り進めて、再び轟の前へと姿を見せた。
「ナメ…ってんのかバァアアカ!!」
轟の左側からは攻撃がこないと踏んだ爆豪が、彼の赤い髪と服をひっ掴み、場外めがけて投げ飛ばす。
爆豪は氷壁で回避した轟を一方的に追い詰めるが、どれだけギリギリな場面になっても、轟は炎を使おうとはしない。
「てめェ虚仮にすんのも大概にしろよ!ブッ殺すぞ!!!俺が取んのは完膚なきまでの一位なんだよ!」
「何でここに立っとんだクソが!!!」
(…悪ィ爆豪)
緑谷と。
向と戦ってから、自分がどうするべきか、自分が正しいのかどうか、わからなくなった。
ずっと、思考が停止したまま。
自分がヒーローになるために、「全力で」戦っていいのかわからない。
「『負けるな頑張れ!!!!』」
遠くから。
自分にきっかけをくれた彼と、どれだけ決断が遅くとも、いつも待っていてくれる彼女の声が聞こえてきた。
轟に向けられたその言葉を耳にして。
爆豪は一瞬、表情を曇らせた。